ダルビッシュは自らの調整だけでなく、技術、精神両面で日本選手に大きな影響を与えた。今回の侍ジャパンには、オリックスの宇田川優希、阪神の湯浅京己、ソフトバンクの甲斐拓也、周東佑京、牧原大成(追加招集)と、育成上がりの選手が4人いる。「育成選手」とは、本契約の支配下選手ではなく、補助的な選手として低年俸、3年間限定の契約で入団する選手のことだ。一軍の試合には出場できないし、多くは支配下選手にならずに消えていく。
そんな中で数少ないチャンスをいかして支配下登録をつかみ、さらには侍ジャパンの一員にまでなるのはまさに「ジャパニーズドリーム」といえる。
なかでも宇田川は故障もあって、一昨年は二軍戦でさえも1試合に登板しただけ。今後の契約さえおぼつかない立場から、昨年後半にオリックス中嶋監督に見いだされ、救援投手として活躍。さらに侍ジャパンの栗山英樹監督が剛速球とフォークを評価して大抜擢したのだ。
1年前はまったく無名の選手だった宇田川は、恐らく夢見心地で宮崎入りしたはずだが、有名選手ばかりの侍ジャパンでは気後れして溶け込むことができなかった。それを目ざとく察したダルビッシュは、投手の食事会のあとの記念撮影で宇田川を真ん中に座らせ、彼の存在を投手陣にアピールした。
それ以後、宇田川はブルペンで臆せずに投球を披露するようになった。「雲の上の存在」のようなメジャーリーガーのダルビッシュが、シンデレラボーイの宇田川を優しくアテンドする。この話はメディアで美談として一気に広がった。
昭和の野球人は「ライバルチームの選手と練習したら情が移るし、チームの秘密も漏れてしまうじゃないか、今の選手は何を考えているんだ」と批判するが、侍ジャパンは36歳のダルビッシュ有を中心に「同じ野球をする仲間」として、一つになろうとしている。彼らは「そんなちまちました話ではないんだ」と言外に言っているようだ。これも、前回までにはなかったことだ。
3月になって、アメリカから大谷翔平、吉田正尚、ヌートバーが加わった。まさに「役者がそろった」という印象だ。
今回のライバル国は、かつてなく手ごわい。日本が3度目の世界一になるための道は、非常に厳しいが、日本のチームワークも、これまで以上に固い。
期待感はますます高まる。選手には故障しないでほしいが、できるだけ長く試合をして、できればアメリカの決勝ラウンドまで進出して、歴史を作ってほしい。