しかし今回、日本は、パドレスのダルビッシュ有、エンゼルスの大谷翔平とMLBでもトップスターになった2選手が出場するほか、カブスの鈴木誠也(のち辞退)、今季からレッドソックスの吉田正尚も出場する。さらにスター候補で母親が日本人のカージナルス、ラーズ・ヌートバーも参加する。
ちなみにヌートバーの曽祖父のハーバートは、穀物飼料のビジネスで成功をおさめ、全米穀物飼料協会(NGFA)の会長になった。また、ラーズとラーズの兄の母校の南カリフォルニア大に野球殿堂の建物と事務所を寄贈。ラーズは曽祖父が寄贈した施設を使って野球をしていたことになる。ロナルド・レーガン大統領の知人でもあり、驚くべき長命でひ孫のラーズが19歳になった2016年に108歳で亡くなっている。ヌートバーは「いいとこの子」なのだ。
アメリカも、MVP3回のエンゼルスのマイク・トラウト、昨年ナ・リーグMVPのカージナルスのポール・ゴールドシュミットなど大スターが参加を表明。ドミニカ共和国は、昨年のナ・リーグサイヤング賞のマーリンズ、サンディ・アルカンタラ、スター内野手のパドレス、マニー・マチャドなどが出場する。野球ファンからは「今回こそは、野球世界一決定戦だ」という声が上がっているのだ。
MLBが、スター選手の出場に理解を示した背景には、コロナ禍でMLBの観客動員が大幅に減少したことがある。経営者たちは「世界」を改めて「市場」として認識し始めたのだ。
さらに、2021年の東京五輪で13年ぶりに行われた野球競技で、日本が金メダルを取ったことも大きい。MLBは五輪も含めWBC以外の大会に、大リーガーを派遣していないが「野球発祥の国が、トップ選手を派遣しないのはおかしいのではないか」という声が選手の間から出ていた。
また、マイク・トラウトはWBCの開催が決まると「俺は出るぜ!」と真っ先に手を上げた。当代一の大スターが参加を表明したことで、他のスター選手が参加する呼び水にもなったのだ。
侍ジャパンは前回大会と同様、2月17日から宮崎市のサンマリンスタジアム宮崎などでキャンプを張った。見物は無料だったが、整理券は一瞬でなくなった。九州全域から車でファンが押し寄せたが、駐車券もすぐになくなった。18万人の客が押し寄せたという。
筆者はプロ野球春季キャンプ取材の流れでWBCキャンプ期間も宮崎市に滞在した。宮崎市内の飲食店主は「客数は2017年よりも多い、コロナ禍で店を閉めた飲食店もあるので、開いている店に客が集中している感じだ」と話した。
JR宮崎駅では、キャンプの最寄り駅であるJR九州日南線、木花駅の切符を買う客で早朝から混み合った。シャトルバスにも行列ができていた。WBCのグッズは売り切れが続出した。
この時期、宮崎大学で入試があったが、宿が確保できず困惑した受験生が少なからずいて、大学側や宮崎市が、ホテルを確保したり、地元の自動車教習所が合宿免許のための宿舎を提供するなどして、受験生のフォローをした。
宮崎のWBCキャンプの報道は、パドレスのダルビッシュ有が初日から参加したことでさらに過熱した。
MLBは今年から「ピッチクロック」「ベースの大型化」「極端な守備シフトの禁止」と大きなルール変更がある。MLB球団は、WBCに出場を認めた選手もできるだけMLBのキャンプにとどまって、ルール変更に対応することを求めた。
このため大谷翔平、鈴木誠也、吉田正尚、ヌートバーは宮崎キャンプに参加できなかったが、今年になって6年総額1億800万ドルの巨額の契約をしたダルビッシュは、パドレスでも別格の存在となり、自分の意志を通して日本に早くやってきた。