ZOZOはなぜ「服を販売しないリアル店」を出すのか

ZOZOが開業した「niaulab(似合うラボ)」
ZOZOが表参道に開業した「niaulab(似合うラボ)」。2月1日に本格サービス開始で、パーソナルスタイリングを無料で体験できる(提供:ZOZO)

ケヤキ並木沿いに立ち並ぶ、シャネルやディオールといった世界的ハイブランドの数々。昨年12月、東京・表参道の地下の一角に、一般的なアパレルとは一線を画す近未来的なアパレルショップがオープンした。

その店舗とは、ファッションEC(ネット通販)「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するZOZOが開業した、「niaulab(似合うラボ)」だ。今までネットを主戦場としてきたZOZOにとって、似合うラボは初めてのリアル店舗。それにもかかわらず、この店舗では服の販売をしないという。

一言でいうと、似合うラボは「プロのスタイリングを体験するための専用店舗」。来店客はこの店舗を貸し切り状態で利用し、店舗に用意された700点以上の商品の中からプロによるコーディネートを体験できる。気に入った商品は、後ほどゾゾタウンで購入することが可能だ。

スタイリストが個別に服やメイクなどをトータルプロデュースする「パーソナルスタイリング」は、1時間当たり1万円前後が相場といわれているが、似合うラボではこれらが完全無料。2月1日からサービス提供が本格的に開始する。

「服を売らない店舗」の狙い

「単に服を売るとかの話ではない。似合うラボは、それぞれの“似合う”を徹底的に追求するサービスだ」。昨年11月、都内で開かれた新サービス発表会。ゾゾの澤田宏太郎社長は、似合うラボの存在意義をこう強調した。

ゾゾタウンは、今や年間1000万人以上のアクティブ会員を抱える国内最大のファッションECに成長した。将来に向け、何かを買うだけにとどまらない「『買う』以外のトラフィック(サイトへのアクセス数やサイト上での操作回数)も増やす」という戦略を掲げている。

つまり、ゾゾタウンで服を買ったことがない、あるいはそもそも買う気がない潜在顧客も含め、今後は「ファッション=ゾゾタウン」という想起率を上げていくのが狙いだ。ゾゾタウンのユーザーに多いとされる比較的ファッション感度が高い層だけでなく、より幅広い客層にリーチし、最終的にはゾゾタウンでの購買を増やすことが目的の1つ。リアル店舗についても、「AIの精度を高め、将来的に無人店舗として全国展開する可能性はある」(澤田社長)という。

もう1つが、本丸である「似合うファッションとは何なのか」を解明することだ。ここに、ゾゾがあえてリアル店舗に挑戦した理由がある。サービス発表会で澤田氏は「その人のスタイル、顔、内面性、趣味などを踏まえたうえで、初めて“似合う”を届けることができる。研究を重ねた結果、ネットの世界だけでは完結できないことが分かった」と語っていた。

ZOZOの似合うラボ
似合うラボは、700点以上の商品の中からプロによるコーディネートを体験できる(提供:ZOZO)

パーソナルスタイリングにおいてとくに重要なのが、服に関する好みや悩みについてスタイリストと「すり合わせ」をすること。

似合うラボでは、コーディネートアプリ「WEAR」から抽出されたコーディネート例を見たり、実際に服を合わせたりしながら、スタイリストと約1時間かけて利用客の「なりたい姿」を深堀りしていく。こうして要望をすり合わせることで、より納得感のあるスタイリングが受けられるようになるというわけだ。

似合うラボでは1日4~5人ずつ、年間で1000人以上の利用客を受け入れ、AIの教師データを蓄積することが目標だ。ECサイトが年齢・サイズなどの定量情報、また他の利用客の購買傾向といったデータしか収集できない一方、似合うラボではその人の嗜好や服を着用する場面などの定性情報、後ほど服が実際に購入されたかといったリアルな満足度を測ることができる。