ZOZOはなぜ「服を販売しないリアル店」を出すのか

似合うラボでは客の嗜好や、実際にネットで服が購入されたかなどリアル店舗ならではの情報を得ることができる(記者撮影)

複合的な顧客情報をインプットしたAIを将来的にはゾゾタウンやWEARに導入し、求めている服を探しやすくする。似合うラボの事業責任者の大久保真登氏は、「お客さんの内面を引き出すのは簡単ではないが、時間をかけて“似合う”を解明し、事業成長につなげたい」と意気込む。

これまでパーソナルスタイリングといえば、芸能人やモデルといった一部の人向け、もしくは百貨店の「ストアアテンダント」と呼ばれる買い物同行サービスなどに限られていた。スタイリストや専門の教育を受けた販売員が一人ひとりに時間をかけて接するため、提供機会、費用面からもサービスを受けられる人数に限りがあった。

しかし、AIの登場がパーソナルスタイリングの局面を変えた。スタイリストがファッションの知見を蓄えるように、AIを使えば膨大な数のコーディネートデータを蓄積することが可能。

日本では、スタイリストが選ぶ服を定額レンタルできるエアークローゼットや、同じくプロが選んだ服を通販で購入できるDROBE(ドローブ)といったファッションテック企業が登場し、AIを活用したパーソナルスタイリング事業を展開している。

AIを使うことのメリットは、無数にある洋服の中から、似合う可能性が高い服を「絞り込む」作業が効率化されることにある。例えばDROBEでは、取り扱いのある15万着の中から、アンケートに基づいてAIが100着程度まで絞り、スタイリストが最終的に5着を選ぶ。これをすべて手作業でやっていた頃は1人につき約4時間を要したが、AI導入により約15分で完結できるようになったという。

潜在的な需要を掘り起こせるか

一方、ここまでしてパーソナルスタイリングを受ける必要があるのかという見方もあるだろう。

DROBEの山敷守代表は、「DROBEの場合、自分のサイズやテイスト・予算に合う服を探してくれる“便利なサービス”を期待して始める方が多い。だが、サービスを継続する多くの方は、自分だったら選ばなかったであろろう服を、スタイリストの提案を通じてチャレンジできる点に価値を感じてくれている。これがパーソナルスタイリングの真髄」とその需要を指摘する。

コロナ禍の大規模な店舗休業はアパレル業界に大きな影響を及ぼした。コロナ前に約11兆円だったアパレルの市場規模は、2020年以降8.6兆円まで減少。DROBEで商品・スタイリスト統括を担う佐熊陽平氏は、「パーソナルスタイリングを通じて、ファッションの新しい楽しみ方を提供していきたい。今ある市場の中でパイを奪っていくのではなく、既存市場の底上げができれば」と語る。

1990年に約20億点だった国内における衣料の供給点数は、2019年には約40億点と倍増、供給過多の状況にある。モノや情報があふれる世界で「本当に似合う服」を求めている消費者は多く、「服の販売が目的ではない、第三者的な立場からの助言を必要とする消費者も多いと思う」(DROBEの山敷氏)。ゾゾが挑戦するパーソナルスタイリングは、アパレルの可能性を広げるカギになるかもしれない。