ただし、自分にうそをつき続けていると、正しい判断ができにくくなるというマイナス面がある。自分以外の何かのせいにするのではなく、自分の力で挫折から立ち直る方法、つまり「誠実なコーピングの手法」は見つけられる。「自分の脳をだまして幸せになろう」とするより、よい対処法があるのだから、私たちはもっとそちらに目を向けるべきだ。
その代表的な方法として、次の3つを紹介する。
①「架空の行動計画を立てる」
以前、私はある友人に対して配慮を欠く行為をしてしまったことがある。1週間ほどずっと「謝るべきだろうか?」とズルズル考え、「いや、大丈夫。きっと彼女は気づいてもいない」と自分に言い聞かせたり、「もう許してくれているはずだ」と思ったりした。
グルグルと自問自答をくり返した揚げ句、最後に、頭の中で、それとなく伝えられそうな謝罪の言葉を思い描いてみた。思っていたよりもカンタンにその場面を想像できた。答えははっきりしていた。
「うん、できる。謝るべきだ」
具体的な行動を頭に思い浮かべてみると、都合の悪いことを「ありえない」と決めつけてスルーすることはなくなる。行動はカンタンなことでOKだ。「このミスをチームにどう説明するか」「転職活動のためのリサーチはこんなふうに始めよう」といったシンプルなものでいい。
②「ものごとのポジティブな側面に目を向ける」
私は誰かと議論をしている最中、「自分の主張は正しいと思って議論をしていたが、ひょっとしてそれは間違いかもしれない」という疑念が忍び寄ってくることがある。その感覚は決して居心地のよいものではない。
そんなときはできるかぎり、「ものごとのポジティブな側面に目を向けるべきだ」と自分に言い聞かせるようにしている。
自分の間違いを認めることで、相手から信用を得られると考えるのだ。間違いを素直に認めることを、自分の将来の評判への投資ととらえる。そうすると、「間違いをきちんと認められる、誠実な話し合いができる人」であると、相手に認めてもらいやすくなる。
③「目標を切り替える」
私の友人に、ソフトウェア企業の共同設立者がいる。起業当初、「経営者として社内でいちばんのプログラマーであり続ける」という目標を持っていたが、そもそも設立して間もない会社にとっては「有害で、非現実的である」ことに気づいた。そこで気持ちを切り替え、別の目標に意識を向けた。
「プログラマーとしての能力が誰よりも優れていること」ではなく、「プログラマーの才能を見極める能力が誰よりも優れていること」を誇りにしようと考えたのだ。この目標は優秀な人材を採用しやすくなるという点で、会社の成功にとっても大いに役立つものになった。
以上の3つは、感情をコントロールするために用いる心理的対処策のほんの1例だ。
人によって、何が効果的かは異なる。私の友人は、「厳しい批判を受けたときに、その相手にあえて感謝する」という心理的対処策を実践しているという。これは彼にとっては有効だが、私にとっては実践のハードルが高そうだ。その代わりに、その批判自体を素直に受け止め、将来的に自分を改善していこうと前向きに考えるように努めている。
少し時間はかかるかもしれないが、こういった練習を重ねていけば、どんな逆境にも負けない力が身についていくだろう。