人間には「基本的にすべてはうまくいっている」と感じたいという基本的な欲求がある。「自分は人生に失敗していなし、世界は恐ろしい場所ではないし、どんなことが起ころうともなんとか切り抜けられるはずだ」と思いたいのだ。
日常生活において、気分や自尊心を脅かされることは頻繁にある。独立して事業がうまくいっていないと、「会社をやめたのは間違いだった?」といった不安が脳裏をよぎることもあれば、上司に反論したときに「彼を怒らせてしまったかもしれない」と他人に直接批判されることもある。難しい選択を迫られることもあれば、何かに失敗することもある。
そのとき、私たちはネガティブな感情を抑えるために「コーピング(ストレスへの意図的な対処策)」と呼ばれる行動をとろうとする。一般的に、コーピングには「自己をだます(自分にうそをつく)」ことが必要だと考えられている。
『なぜあの人はあやまちを認めないのか』(河出書房新社)の著者である、心理学者のキャロル・タヴリスとエリオット・アロンソンは、人が心を健全に保つためには、ある程度の自己正当化が必要であると述べている。
「自己正当化をしなければ、私たちは不愉快な気分を引きずってしまう。『あの道を選んでおけばよかった』『なぜものごとをうまくできないのだろう』といった後悔で自分を苦しめてしまうのだ」
しかし「後悔で自分を苦しめる」ことを防ぐために、本当に自己正当化が必要なのだろうか? 後悔で自分を苦しめない方法を学ぶことはできないのか?
人間はすぐに希望的観測に逃げ込み、自分の偏見や信条を肯定するような証拠だけを見つけようとする。いわゆる「自己欺瞞」である。確かに、私たちはミスをしたときに都合よく言い訳をしようとする。
その一方で、ミスを認めるときがあるのも事実である。肝心なときに自分の誤った考えを正そうとしないことは多いが、まったく変えないわけでもない。
人間は複雑な生き物だ。真実から目を背けることも多いが、正面から向き合うこともある。
過去30年間『自分をだます/自己欺瞞の隠された力』といったタイトルに代表される記事や書籍が、数々出版されてきた。これらは「人は、自分自身や自分の人生に対して?ポジティブなイメージ?を持つことで心の健康を保てる」という、心理学の主張にもとづいて書かれたものだ。