能力の低い人ほどなぜ自分を「過大評価」するのか

能力の低い人がとりがちな言動とは(写真:mits/PIXTA)
「ミスをした部下にアドバイスをしたのに、人の話をまったく聞かない」「親しくしていた同期が昇進した途端、上から目線で冷たくなった」。職場において、こういった経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。実は、これらの行動には脳の仕組みが関係しています。そんな人間関係のストレスを軽減し仕事のパフォーマンスを高めていく秘訣を、言語学者の堀田秀吾氏の著書『誰でもできるのにほとんどの人がやっていない 科学の力で元気になる38のコツ』より、一部抜粋・再編集してご紹介します。

自分の未熟さを正しく認識できない

ミスを指摘されたり、人に注意されたり、批判されたり、やることなすことうまくいかないとき……みなさんはどんな気持ちになるでしょうか。

素直に受け取るのは、なかなか簡単なことではありません。

「いや、だってそれは◯◯があったから……」「私だけのせいでは……」などと、つい反論・他のもののせいにしたくなると思います。

そうすることによって、自尊心や自我を守ろうとしているのです。
コーネル大学のダニングらは、長年、人の認知について研究を重ねてきました。

中でも有名なのが、ダニングとその弟子のクルーガーの名前が冠せられた「ダニング=クルーガー効果」です。

これは「能力の低い人ほど、自分の未熟さや他人のスキルの高さを正しく認識できない。そのため、自分を過大評価する傾向がある」というものです。

たとえば、「仕事ができない人ほど、自分のことを棚にあげて説教をする」とか、「ミスをして叱られても、(自分の非とは思っていないので)人の注意を聞かない」などなど、そうした行動を言います。

自分の非や弱さを認めてしまうと自分の存在意義がゆらいでしまうので、過剰に守ろうとしてしまう、ということもあるでしょう。このように、自分の願望や脳の特性などによって、実際の現象とは違う方向に考えが向いてしまう現象を「認知バイアス」と言います。

ダニングらは、大学生を対象にした調査で、テストで低い点数を取る学生ほど、自分ではもっと高い点数を取っていると考える傾向を見つけるなど、さまざまな研究からダニング=クルーガー効果の存在を裏づけています。

つまり、人間は誰しも「自分の能力不足を認めるのはつらい」ということです。そのため、多くの人が認知バイアスの罠に陥り、現実を正しく見られず、成長の機会を逃してしまっています。

第三者の目で冷静にジャッジする癖をつける

これは反対に考えると、「だからこそ、自分の能力不足を認め、改善しようと努められる人は稀であり、貴重な存在」なのです。

むしろ、自分の弱さを認めるということは、大チャンスなのです。

最近、うまくいかないなぁということが続いているときは、「それは自分が未熟だからではないか?」「落度はないか?」とまずは自問してみましょう。

冷静に、客観的に自分の行動を振り返ったときに、それでも「どう考えても自分に落度はない」のであれば、人の声など気にしなくていいのです。
反対に、「まぁ確かに言い方が悪かったかも」「進め方が良くなかったかも」などと、改善できる点があればもうけもの。行動を変えることで、成長の速度が速くなっていきます。

注意点としては、あくまでも「客観的に」。必要以上に悲観する必要はありません。

第三者の目で冷静にジャッジする癖をつけます。自問自答の習慣をつけることで、自分の行動を正しく評価できるので、結果的に「弱い自分を守るための見せかけの自信」ではなく、「正しい認識にもとづく自信」が生まれてくるのです。

何事も、自問自答。その習慣を大切にしてみてください。