人を育てるときは減点法で見ないほうがいいとよく言われますが、これはシンプルなようで非常に難しいことです。単純に、できない部下がいたらストレスを感じる、ということだけではなく、脳の仕組みも関係しているのです。
昇進した途端に、同期に対して冷たくなったり、部下に厳しく接するようになったりする人、みなさんにも心当たりはないでしょうか?
そういう人を端から見ていると、「イヤなやつだなあ」と感じてしまいそうですが、私たちも出世したら同じことにならないとも限らないのです。
カナダのウィルフリッド・ローリエ大学のホグヴィーンらによると、人は自分が権力を持ったとわかった途端、他者に対する思いやりを失ったり、相手の立場で考えることができなくなったりするという研究結果を発表しています。
自分が何らかの行為をしたとき、そして他人の動作を見たときに活性化する脳の部位があります。「動作共鳴」という脳の働きなのですが、これによって、私たちは他人の行動を理解し、人の立場や気持ちになって考えることができるのです。
ホグヴィーンらの実験では、被験者を、権力を持った場合、普通の場合、ない場合に分けてから、ゴムボールを掴む映像を見せたところ、権力を持った場合の被験者は、動作共鳴を示す脳の働きが鈍ることが観察されました。
人は本来、他者に共感することができる生き物ですが、自分の権力を自覚すると、脳の仕組みによって、共感することができなくなってしまうというわけです。相手の気持ちになって考えることができなくなってしまうのです。
それが、偉い人による嫌味やパワハラや尊大な態度の原因といった、部下への思いやりのない態度や行動という形になってあらわれるわけです。
しかしこれに関しては、脳の仕組みならしょうがない、と考えてはいけません。
そのような権力を持った途端に「イヤなやつ」になってしまうと、本人にとってもマイナスが大きいのです。部下の成長に悪影響を与えるというだけではなく、本人にも大きなデメリットがあります。
クリエイティブ・リーダーシップセンターのジェントリーらがカリフォルニア州立大学のゴルナズ・サドリ教授と共同で行った、世界38カ国の管理職約6000人を対象に実施した調査によると、リーダーとして見られるためには共感が必要で、リーダーに共感を抱けている部下ほど良い成果を残せるそうです。
現状は、あくまでも脳にそのような働きがあることがわかったというだけなので、この権力の罠を回避する効果的な方法の発見が待たれるところですが、間違いなく言えることは、「少々出世したくらいで調子に乗ってしまうと、部下の信用も失うし、そうなるとさらなる出世を果たす可能性が低くなってしまう」ということでしょう。
キングカズことサッカー選手の三浦知良さんなどを見ても、超一流の人ほど驚くくらいに謙虚だったりします。キングカズは、あの年齢になっても現役でプレーを続けていますが、謙虚に、相手の気持ちを考えて行動する。そんな彼の姿勢が、自身とまわりの元気の源になっている。そんな気がしてなりません。