日本は岸田文雄内閣のもとで、良くも悪くも増税される可能性が高い。さらに少子高齢化、景気の不透明。社会保障費の労使折半の負担が大きいなど、賃上げをさほど前向きにさせない雰囲気が充満している。
しかしそのなかでファーストリテイリングは海外での売上高を順調に成長させたり、無人レジなどで経営の合理化や効率化を図ったりしている。さらにファーストリテイリングがかつて発表していた数字によれば社員の勤続年数もさほど長くはなく能力主義を徹底している。
ところで、グローバルなトップブランドに勤務する社員たちの平均給与を調べてみてほしい。たとえばH&Mの場合は12万ドル(約1600万円)だ。
単体1698人のファーストリテイリングの平均年収は2022年8月期で959万円(平均年齢38.0歳)。だからファーストリテイリングがグループ従業員の給料を少し上げたといっても、グローバル先端企業並みかというと、まだまだだ。
とはいえ、この日本において大幅に給与を上げることは同業種に限らず、さまざまな企業に刺激を与えるだろう。誰もが金のために働くわけではない。ただし就職先・転職先選びにたいして報酬は大きなメッセージになる。人材獲得にも好影響を及ぼすはずだ。
ファーストリテイリングのある従業員に話を聞くことができた。社内へのアナウンスの前にニュースサイトで報酬アップを知ったという。まずファーストリテイリングは各店舗で採用される地域(リージョン)社員が多いため、彼ら/彼女らを正当に報いるはずだ、とのことだった。小売店は現場に強みがあるから、本社社員との給与格差をなくすのは潮流にも合致している。
面白い観点だったのは、たとえば海外法人で採用されて、日本に異動する場合だ。そのとき、日本の賃金テーブルがあまりに低いと日本にやってくるモチベーションもない。優秀な人材を呼ぶ点でも報酬アップは意味があるという。
ただ、さらに興味深いことにその従業員は楽観的な意見を語らなかった。というのも、報酬はあくまで全体の額が上がるかもしれないが、個人としては下がるケースがありうるかもしれないからだという。そのような健全な危機感を有していた。
報酬が増える人もいれば減る人もいる。それが能力に応じた結果であれば当然かもしれない。実力本位の給与体系を鑑みると、その点においてはある種の覚悟も必要なのだろう。ファーストリテイリングは実力主義の会社だが、今回の発表ととともにさまざまな論点を投げかけている。