「初任給30万円」ユニクロ、ジーユー賃上げの意味

ユニクロ?ファーストリテイリング
人件費を大幅に上げて得られることは何か?(写真:Kiyoshi-Ota/Bloomberg)

衝撃的な、そして清々しい発表だった。「ユニクロ」「ジーユー」などを展開する国内アパレル最大手、ファーストリテイリングが従業員の大幅な給与アップを決定した。目的は、世界基準での競争力をつけるためだという。

1月11日に発表されたニュースリリースを読み解くと、主なポイントは以下の2つだ。

数%~40%の幅でアップ

① 職種・階層別に求められる能力や要件を定義し、各従業員に付与している「グレード」の報酬水準を数%~約40%アップ
⓶ フラットで機動性が高い組織運営の実態に沿うよう、従来の役職手当などは取りやめ、それぞれの報酬は、基本給と各期の業績成果によって決まる賞与などによって構成

この方針をもとにした具体例も挙げられた。

・現行25万5000円である新入社員の初任給を30万円に(年収で約18%アップ)
・入社1~2年目で就任する新人店長は月収29万円を39万円に(年収で約36%アップ)
・その他の従業員も、年収で数%~約40%の範囲でアップ

国内正社員の8400人ほどが対象となり、国内の人件費総額は前年比15%ほど増える見込みという。ファーストリテイリングは準社員(パート)・アルバイトの時給も2022年9月に改定しており、立て続けの報酬アップ施策となる。

なお全従業員を純粋にアップするのではなく、能力別で査定され、個々の従業員毎に報酬が改定される。とはいえ人手不足が深刻化するだけではなく、人材獲得競争がグローバルに熾烈化するなか、アパレル企業トップのファーストリテイリングが先陣を切った格好だ。

ところでファーストリテイリングの最新業績を見てみよう。2022年8月期の資料によると、売上高にあたる売上収益が2.3兆円、営業利益は2973億円も叩き出している。新型コロナが収束傾向にある中で衣料品の需要が盛り返したうえ、円安の恩恵もあったようだ。外貨建ての金融資産を換算すると1143億円もの差益となった。なお中国はさすがにロックダウン等の影響で落ち込まざるを得なかったが、その他の海外での販売は順調だった。

一方で、ファーストリテイリング会長の柳井正さんは、「円安はデメリットが多い」と発言して話題になった。同社は為替のプラス影響がなかったとしても当期利益が過去最高だったことを客観的に付け加えておきたい。各国で、品質の良さに加えて、コロナ禍での普段着(LifeWear)のコンセプトが着実に認められたためだろう。

さて決算短信を続けて見てみると、販売費及び一般管理費の欄に人件費は年間3186億円とある。これはあくまで販売費及び一般管理費の人件費であって、売上原価に少しは含まれているであろう人件費は合算していないとみられる。ただ比率はさほど多くないと推計されるため省略して論を進める。

ファーストリテイリングは人件費3186億円を払っても、その後に営業利益2973億円を出している。このうえで、グローバルな競争を勝ち抜くための人件費アップなのだ。あくまで上記の人件費は連結の数字であり、国内に限定した人件費はわからない。

ファーストリテイリングの業績推移

あくまで仮に対象となる8400人全員が年間100万円の報酬増になるとしてみよう。そうすると8400×100万円=84億円となる。実際の増加額からは外れるかもしれないが、これぐらいの規模でのコストアップは許容しているはずだ。経営者とすれば大きな判断だろう。しかし営業利益と比べると、お金の使い方として理にかなうと私は思う。

ファーストリテイリングと日本人の給与

日本人の平均給与は2021年で443万円だ。これはずっと上がらないといわれてきた。正確には、賃上げは微小になされているのだが、物価の値上がりで実質賃金は下がっている。厚生労働省が1月6日に発表した2022年11月の毎月勤労統計調査(速報)では実質賃金は前年比3.8%下落となり、8カ月連続のマイナス。それだけではなく、2014年5月以来の大幅なマイナスであり、物価の上昇ペースに賃金の上昇がまるで追いついていない。