リモート勤務により、通勤時間を節約でき、仕事の時間に充てられる、業務に集中できる、海外とのコミュニケーションが円滑に進むといった多くの利点があります。
実際に、海外の調査などでは、「生産性」という意味では下がらない、むしろ上がったなどという結果もあります。
企業としても、オフィスの賃貸料を節約できる、出張費や通勤費が抑えられるなど、「経費節減の効果」も高く、短期的にはいいこと尽くめのようにも見え、実際に「基本的に全面リモート」とする会社なども増えています。
一方で、「リモートによるひずみ」は随所にあらわれはじめており、そのひとつが「幽霊社員」の増加です。
日本では、企業による社員の解雇が難しく、どんなに業績が上がらずとも、たいした仕事をしなくても、クビになることはあまりありません。
リモート環境を契機に、より生産性を高め、これまで以上に成果を上げる社員もいる一方で、上司の監視も干渉もない環境で、ベアミニマムで給料をもらい続けようという「野放し社員」が増えてしまう状況が生まれています。
結果的に、「働く社員」「働かない社員」の格差が拡大し、「リモートが許される職場」「許されない職場」という不公平感が広がっています。
そして何より、リモートの最大の問題点が「コミュニケーション」です。
企業組織の血脈ともいえる「コミュニケーション」が滞り、企業としての一体感、企業への忠誠心や士気の停滞が顕在化しています。
私も、オンラインで研修を行うことも多いのですが、コミュニケーションに関する内容ですので、顔を出しての参加を懇願しても、誰ひとり顔を見せようとしない組織もあります。
「私、お化粧していないので」「通信環境が悪いので」などと口々におっしゃるのですが、顔を映していても、「半分隠れている」「まったく目線が合っていない」といった状態で、仏頂面がさらに、怖く見える始末。
「こんな感じでは、部下も同僚も、さぞ話しかけにくかろう……」と想像してしまいます。
実際、「リモートでは、イノベーションや創造的なアイディアは生まれにくい」というのが、多くの研究から明らかになっています。
これまでやってきた仕事を粛々とこなしたり、部内で意思疎通をしたりという点はあまり支障はありませんが、「部の垣根を越えた創発的なコミュニケーションが生まれない」というデメリットがあるのです。
多くのイノベーションが「オフィスでの偶発的な会話、雑談」など「人と人との摩擦熱」から生まれると言われており、会って話すほうが圧倒的に効率的という場面も多くあります。
リモートでは「理由やアポなしでは、話しかけにくい」ので、ちょっとした声かけは対面のほうが簡単です。
そういった「小さなコミュニケーション」の積み重ねが、連帯感を強め、チームワーク、帰属意識へとつながっていくわけです。
テキサス大学のアート・マークマン教授は『ハーバード・ビジネス・レビュー』の中で、
と、「共に顔を合わせて働く」ことの意義を説いています。
こういった理由から、アメリカの有力企業は次々と「オフィスへ戻るように」と社員に呼び掛けており、たとえば金融の雄、ゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモンCEOは従業員にオフィスに戻るように命じ、現在65%が復帰しました。