細殿の三の目の局で私が横になっていると、同僚の小少将の君もやってきた。「宮仕えの仕事って、きついし、つらいよねえ!?」と私は彼女と散々愚痴を言い合った。
寒くてしょうがないので、とうとう私たちは寒すぎて硬くなった衣を脱いで横に置き、綿入りの分厚い衣を重ね着することにした。そして香炉に火をつけてあったまる。「しょうがないんだけど、こんなみっともない恰好しちゃって恥ずかしいわ」と2人で嘆き合った。
しかし間の悪いことに、今日に限って侍従の宰相、左の宰相の中将、公信の中将などたくさんの男性たちがあいさつをしに来る。
「なんでこんな恰好してる日に限って来るわけ!? もう今夜はいないものだと思われたいんですが!?」と内心ぶちぎれ。たぶん誰かが今日はあの子たちがここにいるよって言ったんでしょう……。
「明日朝早く出勤しますね~。今日は寒すぎてゆっくりお話もできませんし」と言いつつそそくさと帰る男性陣の後ろ姿を、私は見つめた。うーむ、あんなに早く帰りたがるなんて、家でどんな素敵な奥様が待ってるっていうんだ。
いや、これは私が未亡人だから言ってるんじゃなくて。
寒いなか、なんとか同僚と身を寄せ合って寝ようとしているのに、仕事場の男性たちが来て、相手をしなければいけないことに内心腹立たしく思う紫式部。「今宵はなきものと思はれてやみなばや」なんて、「今夜はもういないもんだと思ってくれ~」という本音がかなり出ていて面白い。
紫式部といえば、『源氏物語』を書いた才女というイメージが強いかもしれない。しかし実際、彼女の日記を読んでみると、かなり内向的で、宮中の仕事に対してもネガティブな感想を持っていることが見て取れるのだ。
紫式部は、宮中の華やかな儀式に出席したときすら、「そんなことより仕事が嫌だ」と日記に記している。
私も昔は、こんなふうに人前に出て働くことになるなんて、想像もしてなかった。でも人間って慣れるもんだから、私もいつかは仕事に慣れて、図々しく人前に出て顔をさらしてもなんとも思わなくなるんでしょう……ううっ、想像しただけでそんな自分、絶対に嫌~~!!
女房仕事文化に染まった将来の自分を想像した私は、「ほんっとうに無理」とゾッとしてきて、華やかな儀式も目に入ってこなかった。
とにかく女房の文化に慣れなかった、というより慣れたくなかったらしい、紫式部。「顔をさらす」必要のある仕事に、かなり抵抗があったらしい。しかし彼女が仕事に対して無気力だったかといえば、そうでもない。実は紫式部日記には、職場の同僚たちの仕事っぷりに対する批判もきっちり記録されている。