そこがBtoBtoCの難しさ。NetflixはBtoCしかなかったのでBtoBに寄せることはかなり難しそうだ。なにしろ上層部はみんな広告営業を体験してないし広告を軽蔑している。おそらく新参者の広告事業担当者が編成部門や上層部に押されてそれが強引さにつながっているのではないか。
いずれにせよ、たった半年でスタートさせたのがすべての問題を生んでいる。だが始めてしまった今、軌道修正はかなり厳しいだろう。
理由その2)Netflixのアイデンティティは広告モデルと正反対だから
日本のテレビ局だけでなく、海外のコンテンツもCMがついてるものとないものがある。広告の出し方には始まる前にCMが出るプリロールと、途中に出るミッドロールがある。映画を提供した権利者は、プリロールは譲ってもミッドロールは嫌に決まっている。勝手なところをCMで切るなと言うだろう。そもそもNetflixは広告がつかないから配信権を渡したのに、プリロールであっても絶対CMをつけたくない権利者は多いはずだ。そういう交渉を一つ一つのコンテンツに対し行った結果がCMが出たり出なかったりになったと想像できる。
Netflixオリジナル作品なら自分のものだからCMをつけられるのか。そう単純でもないはずだ。最近作で評価の高かった「パワー・オブ・ザ・ドッグ」はNetflix作品だがCMなしだ。誇り高いジェーン・カンピオン監督がCMをつけるなんて絶対許すはずがない。
またNetflix作品はテレビでは放送できそうにない強烈な番組が売りだ。「イカゲーム」や「地獄が呼んでいる」は人気だが、次々に人が死ぬこの2作にCMを出したい企業がいるだろうか? 最近の作品で世界中で人気作になった「ダーマー」は殺した人間を食べてしまう異常者の実話を基にしたドラマだ。私が企業の担当者だったら、頼むから「ダーマー」にはうちのCMを入れないでくれと懇願するだろう。放送に向かない、つまりスポンサーがつかない企画を実現するのがNetflixなわけで、彼らの広告事業にはそもそもの矛盾があるのだ。
CMの出し方にも課題がある。まだ数日見ただけだが、広告つきプランを見て回る時間の中でCMはものすごく少ない。日本のテレビでは放送時間の中のCMの枠は18%以内と決まっているがNetflixはそれより圧倒的に少なくほんの数%だろう。プリロールCMの映画を見ればほんの1~2分しか2時間の間に接しない。
またさっきCMを見た番組を一旦やめて途中から再生するとCMなしでそのまま視聴できる。私の想像だが、視聴体験を大事に守ってきたNetflixが、顧客にCMをやたらと見せないようにしているのではないか。それは素晴らしいことだが、CMで儲けるためのプランでCMをあまり見せないようでは成り立たない。
またNetflixの質の高さも広告メディアとしては障害になる。テレビよりお金をかけた質の高い番組の前にティファニーやルイ・ヴィトンのCMはいいとして、メルカリやイーデザイン損保のような超日常的なCMが流れると、非日常に浸る気持ちがなえてしまう。その意味でも、NetflixはCMに合わないと思う。
理由その3)オンデマンドは広告モデルに向かないから
オンデマンド映像配信が広告に向いてないのもNetflix広告つきプランがうまくいかない理由だ。YouTubeはその好例。その視聴時間はテレビ受像機だけでもすでにキー局と並ぶ水準になっている。スマホでの視聴はその何倍にもなるだろう。YouTubeの日本での広告売り上げをアルファベット社は明かしていないが、電通の集計によると2021年の日本の動画広告市場は5128億円。その中で、動画の前や間に再生されるインストリーム広告が2921億円だった。ほとんどがYouTubeだとしても3000億円に満たないのだ。同じ年の地上波テレビ広告売り上げは下降傾向とは言え1兆7184億円。YouTubeは見られている時間に対して広告売り上げが低いと言っていいと思う。