ディズニーが「独自動画」強化に招き入れた人材

『ドライブ・マイ・カー』のプロデューサーを務めた山本晃久氏
山本氏はディズニーに入っても「従来のスタンスとあまり変化はない」と述べた(撮影:今井康一)
昨年、カンヌ国際映画祭で脚本賞、アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した映画『ドライブ・マイ・カー』。プロデューサーを務めた山本晃久氏は現在、ウォルト・ディズニー・ジャパンの動画配信「ディズニープラス」で新しい作品作りに取り組んでいる。なぜディズニーに移ったのか、映画と動画配信の違いなどについて聞いた。

――なぜディズニーに移ったのですか?

成田岳さん(ディズニープラスのコンテンツブランド「スター」で、日本独自作品の制作を統括するエグゼクティブ・ディレクター)に声をかけていただいたのがきっかけ。成田さんとは仕事上の接点が多く、業界の抱える問題について話し合うこともあった。思うところが合致しているという感じがあった。

声をかけていただいたのは2021年の初め、ちょうど『ドライブ・マイ・カー』の仕上げに入るところだった。この映画は自分としても大きな仕事だったので、それが一段落して、タイミングがよかったということもある。ディズニーに誘われて単純にうれしかったし、光栄なことという気持ちもあった。

まず観客に楽しんでもらうことが大事

――どんな役割を任されていますか?

われわれは作品を自前で作っているわけではなく、プロダクションやプロデューサーなど外部のパートナーさんたちと一緒に作っている。そこから企画をもらい、チームで精査し、企画を決定する。でも「あとはおまかせ」ということではない。ディズニーが培ってきたストーリーテリング(物語を語ること)を、みなさんとシェアすることにこだわっている。

それをパートナーも巻き込んで推し進めるのが僕の役割。ディズニーのストーリーテリングを自分流に解釈すれば、「観客のことをしっかり考えること」。観客に感動してもらい、楽しんでもらう。

こうした基本的な部分は、作品作りで意外に置いていきがちな部分だ。ディズニーに入って、みんながFUN(楽しませる)を考えているのは、新鮮な驚きだった。

――ドラマでも「ディズニーらしい作品を作れ」などといった、制作上の制約はないのですか?

「スター」の中にアメリカのゾンビドラマ『ウォーキング・デッド』があるから(笑)。特に制約はないと思う。これからラインナップが順次発表されていくと思うが、ジャンルも偏っていない。

ディズニーでの仕事はドラマの配信が中心になると思う。僕自身、これまで映画だけでなく、ドラマも作ってきたので、(映画とドラマの)垣根は感じない。ただ両者は「語る時間」が違う。ドラマは劇場より何倍も長い。1話ごとに区切り、次を観てもらうために1話ごとの盛り上がりも必要になる。

ドラマの最大の利点は、登場人物のキャラクターをより深く掘っていけるところだ。

僕がかつて衝撃を受けたドラマに、『ブレイキング・バッド』というアメリカのテレビドラマがある。登場人物の人間性が深く描かれ、しかもその関係性が大きく変わっていく。そして視聴者がその目撃者になる。

ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』のような読後感。ドラマを見終わったときは、登場人物の人生の秘密が、こちら側に開かれているという感覚になった。

映画でも可能だが、ドラマであればより丁寧に人物を描いていくことができる。それは恋愛ドラマでも、コメディでも、ホラーでも、ジャンルは問わない。

1日で脚本15ページを撮る日本の現場

山本晃久氏
山本晃久(やまもと・てるひさ)/1981年生まれ、兵庫県出身。映画『彼女がその名を知らない鳥たち』『寝ても覚めても』『スパイの妻』などを手がけ、第25回新藤兼人賞プロデューサー賞、第45回エランドール賞プロデューサー奨励賞を受賞。映画『ドライブ・マイ・カー』では第74回カンヌ国際映画祭脚本賞、第94回米国アカデミー賞国際長編映画賞などを受賞。C&Iエンタテインメントを経て、現在はウォルト・ディズニー・ジャパンにてプロデューサーとしてコンテンツ制作に携わる(撮影:今井康一)