ディズニーが「独自動画」強化に招き入れた人材

――成田さんと共有する「業界が抱える問題」とはどういうことですか。

作品を作るときに十分な準備期間がなく、クオリティを上げられるのにそれができないという歯がゆさがあった。いろいろな事情があるが、そこは資金面、さらに業界に関わる人たちの意識の問題が大きいと思う。

『ドライブ・マイ・カー』は準備という意味ではいい時間がとれたといえるが、撮影日数は40日程度。これを海外の人に言うととても驚かれる。海外では撮影に最低で2カ月、通常は3カ月以上かけるからだ。

撮影ペースは、古い時代には1日で脚本の2~3ページを撮っていたと聞く。そうすると役者もスタッフも集中できる。でも、僕は1日15ページ分を撮ることもあった。どう撮ればいいんだろう、そういう状況があった。

予算についても、脚本に対して適正な予算はなかなか確保できない。プロデューサーとして、脚本の中でこれはできて、これはできないという取捨選択にいつも迫られていた。

――そうした問題はディズニーに来て改善されたのでしょうか?

撮影中の作品に関しては、演出と制作の連携がとてもよくとれている。1日2~3ページとはいわないが、1日4~6ページとか、良いテンポで撮影できているのでは。週1~2日の撮影休暇も取れている。

一方で制作期間が長くなると、ロケに行くと季節が変わってしまうこともあって(笑)。これからはスタジオをもっと活用していきたい。

――予算規模も従来とずいぶん違いますか。

自分がやってきた環境と比べれば、間違いなく予算規模は大きくなった。

適切な人材を確保し、一定の期間をかけてやれば、予算が必要なのはある意味当然のこと。具体的な数字は言えないが、物語に対して適正な対価を払うことができていると思う。

――劇場と動画配信との違いについては? 配信は基本的に会員向けとなり、また、視聴者の視聴行動のデータを豊富に取れます。

動画配信だからといって、特定の観客に向けて作るとはあまり考えていない。データもそれほど意識しない。物語には独特のうねりや、たどり着くべき場所があり、それらを大事にしたい。

これまでの自分のスタンスとあまり変化はないんですよ。「物語中心主義」で、1本1本丁寧に作っていきたい。

今秋から配信が始まった阿部寛さん主演の『すべて忘れてしまうから』は、スーパー16ミリメートルフィルムで撮影しており映像として本当に豊か。暮らしの中のささやかな出来事の重要さを改めて語りかけている。主人公が最終的に得るものは、僕個人にとっても感動的なものだと感じる。『シコふんじゃった!』は、いわずとしれた周防正行監督の30年前の名作を、男女中心の物語に語り直す。ディズニーでいえば『クール・ランニング』のような、若者が一致団結していく青春ストーリーだ。

面白いものを作れば、世界で観てもらえる

ディズニーに転身した山本晃久氏
10月28日「東京国際映画祭」で開かれたトークセッションでの様子(編集部撮影)

――これまでは日本発で世界に注目されるのはアニメが多く、ドラマは少ないように感じます。

われわれも始めたばかりで、一生懸命作っていくということしかない。自分の心情としても面白いものを作っていければ、いろいろな国の人に観てもらえると信じている。

日本で物語を作ると、自然と日本らしくなる。他方で、世界に向けて作るという意識はあまりない。もう本当に、愚直に面白いものを作るだけ。自分の中に育てたさまざまな「観客」が観たいと思うものをいかに作っていくか。そのためには、自分の中の観客性が豊かじゃないとだめだという意識をずっと持っている。

――今後はどんな作品を作っていきたいですか。

12月28日からはサイコスリラーの『ガンニバル』の配信が始まる。骨太なヴィレッジ・サイコスリラーで、メチャクチャ言いたいことがあるが、とにかくワクワクして待っていてほしい。

(ディズニーでは)年間何本作れというノルマのようなものはない。自分たちが最善を尽くし作れる時期にきちんと作る。スタッフとキャストの心を1つにして、作品にケミストリー(化学反応)をもたらす。プロデューサーとして、毎回緊張感を持ちながら作品に向き合っていきたい。