Twitterを個人で440億ドル(約6兆5000億円)を投じて買収した起業家のイーロン・マスク氏が前代未聞ともいえるリストラを進めている。10月31日付でTwitterの最高経営責任者(CEO)に就任すると同時に取締役を全員解任。11月4日には全世界の従業員7500人の半分に当たる約3700人に解雇を通告したと、主要メディアが報じている。
テスラをはじめ、これまでさまざまな企業の創設にかかわってきた起業家のイーロン・マスク氏はリベラルというよりもリバタリアン=完全自由主義者である。そのため「買収したTwitterの人員整理の対象となるのは、検閲部門などではないか」という憶測が流れていた。しかし、実際はその憶測の範囲にとどまらないようだ。日本法人の従業員も含まれ、その数も相当数に上るとみられる。
本稿執筆時点では、部門や正確な人数が発表されておらず、さらに非上場企業になったために情報の完全な把握は難しい。ただ報道されている人員削減数を示すように、Twitter上で解雇されたとみられる元従業員らが自身や周囲の雇用状況について積極的に“つぶやい”ている。
イーロン・マスク氏は、なぜここまで一気に大量解雇へと打って出たのか。アメリカならばまだしも、解雇要件の厳しい日本でいきなりこうしたリストラを進めることについての疑義は労働問題に詳しい論者が論じてくれるだろう。また法律問題を越え、プライベートカンパニーにおける労働慣行についても誰かが語ってくれるだろう。ここでは、財務面からTwitterの解雇問題を見ていきたい。
2021年にTwitterが発表した財務データを見てみよう。ここからの記事中の数字はいずれも概算だ。2021年12月期の連結最終損益は、2億2140万ドルの赤字だったと知られる。これは円換算で332億円ほどになる。売上高は50億ドル=7500億円ほどを得ている。
しかし、その後に差し引かれるコストとして下記がある。
売上原価:18億ドル=2700億円
研究開発費:12億ドル=1800億円
販売費:12億ドル=1800億円
一般管理費:6億ドル=900億円
上記がそれぞれかかっている。これらに訴訟関連費用を減じると営業損失が出る計算だ。
(外部配信先ではTwitterの収益状況を示した図表など画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
Twitterの財務レポートによれば、下記の通りの説明があり、それらは人件費の塊であるとわかる。つまり収益に対して人件費の重みが最終損益を赤字にしていたのだ。
売上原価:インフラ、ソフトウェア、ネットワーク機器の減価償却費を含むが、一部がオペレーションチームへの報酬
研究開発費:研究開発に関わるエンジニアの報酬が大半
販売費:セールスやマーケティングにかかわる人材への報酬が大半
一般管理費:役員、財務、法務、人事等にかかわる人材への報酬が大半
赤字にいたる費用の多くは人件費であり、さらにコストへかなりの比率を占めるとわかる。
なお公平に付け加えておけば、この純損失と実際の現金の減少はイコールではない。Twitterが経営危機に陥っているわけではない。現金及び現金同等物は22億ドル(3200億円)ほどを有している。
ただしこれも付け加えておけば、営業活動(=本業によって稼いだキャッシュ)は2019年度に13億ドル(1900億円)だったところ、2020年度は9.9億ドル(1450億円)、2021年度は6億ドル(880億円)と減少していた。これは研究開発費等の増加による。