ところで、なぜ小休止は、働く人間のスタミナやパフォーマンスにこれほど重要なのだろう?
それを説明しているのが、科学誌『コグニション』に発表された研究である。この研究では、被験者を4つのグループに分け、それぞれ同じ作業を50分間してもらい、各グループの集中力がどのくらい持つかを調べた。ただし、1つのグループだけは、途中で作業の手を止めて、ほかのことに注意を二度そらし、また作業に戻るよう指示された。
50分間の作業中、4つのグループのうち3つは、明らかに集中力が低下した。ところが残りの1つ、つまり注意を二度そらしたグループは、時間がたっても集中力が落ちなかった。
ここからわかるのは、作業の合間に少し頭を休ませるだけで、長時間集中する力を劇的に高められるということだ。たとえそれが「何もしない」休みではなくても、「目的の活性化と非活性化を行うことで集中力は保てる」と、研究を主導したアレハンドロ・レラスは私に語った。要は、目の前の作業から離れると脳がリセットされるので、より良い状態で作業に戻れるわけだ。
実社会の例も見てみよう。コーネル大学の調査によると、ウォール街の企業のコンピューター利用者が勤務中に休息や短い休憩をとったところ、作業の精度が13%上がったという。カーネギーメロン大学の研究者は、作業をわずか3秒から30秒中断するだけで、労働者の集中力が続くようになり、やる気もアップするというデータを得た。
また南アフリカとオランダの研究者による共同研究で、「積極的な活力マネジメント」(自分の気力体力を観察して休息のために小休止をとること)を実践している人々は、実践していない人々よりも創造力に富むことがわかった。
どんな休憩をとることが大事かもわかっている。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校とジョージ・メイソン大学の研究者は、会社員およそ100人の休憩のとり方を観察した。
研究の参加者は平日の10日間、日記をつけ、ランチ休憩後に仕事のプレッシャーをどのくらい感じたか、休憩中に何をしたか、1日の終わりにどの程度疲れていたかを記録した。その後、研究者が各人の休憩時の活動を「リラックス」(ぼんやりする、ストレッチをする)、「栄養摂取」(間食をとる)、「社交」(同僚と雑談する)、「認知活動」(読書、メールチェック、SNS)に振り分けた。
すると実際に効果があったのは、「リラックス」と「社交」だけであることが判明した。仕事の休憩中に認知に関わる活動をすると、休憩で取り戻そうとしている脳の処理能力の多くに負担をかけるので、疲れはむしろ増してしまう。
神経科学から創造性の認知的処理に至るまで幅広い分野のさまざまな研究が、小休止は仕事の質を高める、と証明している。休憩をとるとパフォーマンスが上がるなら、過度の時間的プレッシャーがその逆の働きをすることもすぐに想像がつくだろう。
ハーバード・ビジネススクールのテリーザ・アマバイル教授は、「人間はプレッシャーがかかった状況で創造的になれる」という誤解が世間にあることに気づいた。せっぱ詰まると急に仕事がはかどるからだろうが、現実には低いか中くらいの時間的プレッシャーの中で、脳に内省のためのスペースがあるほうが成果はあがる。
これをアマバイル教授は、「人は概して“仕事をする時間が足りない”と感じており、創造的で革新的な仕事をしたいときにはなおさらそう感じている」とまとめている。
(訳:三輪美矢子)