私がトヨタに入った当時は、まず4月に1カ月間、座学での集合研修がありました。最初の1カ月は「Toyota Business Practice:TBP」に関する研修に時間が割かれていました。
TBPを素朴に直訳すると、「トヨタにおける仕事(=ビジネス)の実践、業務の進め方(=プラクティス)」という意味になると思います。要するに、「トヨタにおいて、働くとはこういうことです!」という定義が、明確に言語化されているのです。
トヨタにおける仕事の定義は、次の8つのSTEPで構成されています。「TBP8STEP」と言われていて、日本に限らず世界中の従業員がこれを学ぶのですが、この8つのSTEPは秘中の秘といった類のものではありません。書店に並ぶトヨタ関連本を紐解けば、だれでも学べる開かれた知見です。
ここでは、出版年が2019年と比較的新しい参考文献として、『ザ・トヨタウェイ サービス業のリーン改革』(ジェフリー・K・ライカー、カーリン・ロス 著/稲垣公夫、成沢俊子 訳/日経BP)に掲載されている文言を引用し、以降で活用していきます。
みなさんと共通認識にしておきたいことは、8つのSTEP全体を通じて読み取れる次のポイントだけでOKです。「問題の明確化」「真因(とりあえずは真の原因といった理解で大丈夫です)の分析」「対策の立案」……等々。
要するに、この8STEPは「問題解決手法」のことなのです。したがって、「トヨタにおける仕事とは何か?」の定義は、次のひと言で要約することができます。
どうすれば周囲の問題を解決し、世のため人のために貢献していけるのかについて、8つのSTEPを踏めば実践できるよう明文化されている。しかも、書店のトヨタ本コーナーに行けば、だれもがこの叡智にアクセスできてしまう。これは誇張でも何でもなく、日本が世界に誇る無形文化遺産だと思うのですが、いかがでしょうか。
私が受けた当時のTBPに基づく問題解決の研修では、2人の講師が講義を担当しました。
1人目は、グロービスというMBAが取得できる日本最大のビジネススクールの先生。途中からは、ひと回りほど年次が上の先輩社員です。
トヨタには「教え、教えられる」といったキーワードで形容される企業文化が根づいていて、社員同士が教えてもらったり教えたりすることが、時間のムダではなく、大切な仕事のひとつとして位置付けられています。
だからこそ、社会人教育のプロフェッショナルであるグロービスにすべてを任せるのではなく、社員自身が教える力を高められるようにも設計されているのです。