中小企業の経営者もこのような動きを見て、「うちでもデジタル人材を育てないといけない」「うちでもデジタル人材を採用したい」と考えるわけです。
しかし、どの中小企業も、そのような余裕はないでしょう。日々の業務で手一杯。時間的にも金銭的にも、大企業とデジタル人材を取り合う力はありません。
「いや、それでも正念場だから、なんとかがんばってみよう」とチャレンジしても、おそらくうまくいきません。
教育にお金をかけて優秀なデジタル人材を自社で育てることに成功しても、その人は近い将来、きっとIT企業や大企業に転職してしまいます。
中小企業あるあるとして、数カ月に一度くらいはプログラムを書く仕事があっても、それ以外はパソコンの保守や設定など、社内のパソコン当番のような扱いになってしまいます。「これじゃあ宝の持ち腐れだ」と、試しに転職サイトに登録してみたら引く手あまた。おまけに給料も大幅アップになり、確実に他社にとられてしまうでしょう。
中小企業が高額の給与で釣って、採用した場合もうまくいくとは限りません。外部から来た人は、中小企業のデジタルの整備状況を、まるで評論家のような態度で批判するケースも多くあります。
「この会社は遅れている」「この会社の人はITリテラシーが低いから困る」などと責められると、他の社員からの反発を買うばかりで、社内のムードが悪くなります。
IT企業でもなく、大企業でもなく、わざわざ中小企業を選んで転職してくれる都合のよいデジタル人材はいないと考えるべきです(いたとしたら、それはなんらかのそれなりの事情があるということです)。
中小企業には優秀なデジタル人材は来ない、もし来たとしても長く居続けてはくれないという事実をまずは受け入れましょう。
世の中、甘い話はありません。誰か1人優秀なデジタル人材を採用すれば、DXがみるみる実現するという「おとぎ話」は捨ててください。
「中小企業はデジタル人材を採用できない」という事実に失望する必要はありません。その事実を前提として、今後のDX戦略を考えていきましょう。
そもそも中小企業のDX人材に必要なことは、「プログラミングができる」ことではありません。自社の業務を理解し、どのようにデジタルを活用し、どのような戦略を立てるかを「設計」する力です。また、それを推進するリーダーシップも必要です。
これらができない人は、いくらプログラミングができたとしても、組織の中では力を発揮することができません。
必要なのは、会社をよりよくするために、当事者意識を持ち戦略を立てられるかどうか。デジタル化推進の先頭に立ち、業務に取り組めるかどうかです。
この観点から考えると、外部からデジタル人材を連れてくるよりも、社内に目を向けた方がいいことに気づくはずです。社内に目を向けると言っても、大企業が取り組んでいるリスキリングではありません。社内の業務に精通し、人望もやる気もある非デジタル人材に、デジタルを学んでもらうということです。
このときに大事なのは、プログラミング技術のような専門的な知識を身につけることではありません。挑戦していただきたいのは、「No Code(ノーコード)」です。
ノーコードは、ノンプログラミング、つまりプログラムを書かずに、システムをつくったり変更したりできるシステムのことです。それができるツールを、ノーコードツールと呼びます。
つまり、ノーコードツールを使って、自社に必要なシステムを設計できる人材(以下、ノーコーダーと呼びます)を育成すればいいのです。
ノーコードツールは、プログラミング言語などの習得がいらないので、デジタル人材でなくても使いこなすことができるのが大きな特徴です。デジタル人材がいない中小企業にとっては大きな武器となります。