近年、世界のエリート頭脳が結集するシリコンバレーでは、禅や茶といった日本趣味がムーブメントとなっています。アップルやグーグルの社員は、朝、オフィスの瞑想室でマインドフルネスを行った後、コーヒーではなく緑茶を片手にデスクにつき、仕事を始める。そんなスタイルが定着し、今や日本に逆輸入されるという現象が起きています。
21世紀の初頭あたりまで、アメリカ人が好む茶といえば甘みの強いスイートテイストが定番でした。それがここ数年、食のトレンド発信地でもあるシリコンバレーで無糖の緑茶が飲まれるようになったことで全土へと広がりをみせ、いまやアメリカは日本の緑茶輸出先第1位となっています。
シリコンバレーで注目されているのが、先述したお茶の持つ「物質的な効能」です。ティーファミリーの紅茶・緑茶・烏龍茶。それぞれ製法によって成分の違いが出てくるものの、基本的な成分として挙げられるのが、テアニン(旨味成分)、カテキン(渋み成分)、カフェイン(苦味成分)の3本柱です。
「茶は末代養生の仙薬なり」
日本の茶祖・栄西禅師が示したように、お茶は古来万能薬として広がりました。
イギリスで初めて茶の販売をしたロンドンのコーヒーハウス「ギャラウェイ」では「待望の東洋の神秘薬である茶が初上陸!」と大々的に広告を打ち出し、宣伝ポスターには「頭痛、目眩、腹痛、消化不良、下痢などの症状回復から虫歯、肥満、視力低下の予防まで効果を発揮」と20にも及ぶ薬効をずらりと並べ、たちまちジェントルマンたちのパワードリンクとして人気となりました。
ビジネスパーソンが身につけたい礼儀作法のことを、日本では「ビジネスマナー」といいますが、これは和製英語。国際社会では「ビジネスエチケット」と表記します。「ビジネスエチケット」という概念が生まれたのは17世紀、世界初のグローバルカンパニー東インド会社が誕生した頃です。
イギリス東インド会社で株式システムが登場した際、出資者を募るブローカーたちは、「マナーが悪い」という理由で王立取引所への立ち入りが許されず、近隣にあったコーヒーハウスに集まるようになりました。
投機熱の高まりとともに、一攫千金を狙う貴族から闇の相場師まで、さまざまな階級の人々が入り乱れるようになり、不正行為やトラブルも日常茶飯事というカオス状態に陥っていきます。そんな中、貴族から次々と取引を依頼されるブローカーがいました。それは、「教養」を身につけた人です。
ここでいう教養は「カルチャー(Culture)」のこと。日本ではカルチャー=文化と捉えることが多いのですが、語源は「耕す」に由来し、「教養」や「洗練」を意味しています。つまり、投資の知識はもちろんのこと、洗練された身だしなみや作法といった「ジェントルマン文化としての教養」を高めた人がビジネスチャンスをつかんでいったのです。
これは、出資する貴族の立場に立ってみると当然のことでした。階級が違うとはいえ、相手に不快感や不安を与える「教養が足りない人(Uncultured Person)」に大金を預けるわけにはいきません。積極的に教養や知識を身につけ、品格を高めようとする人間性を評価したのです。