2015年頃からは、「心理的安全性」という言葉が知られるようになり、安心安全な場を作り、チャレンジできる環境を作る必要があると認識されてきました。その言葉とともに、笑顔で対応するなどといったことが広がってきましたが、それでもやはり、ビジネスの場面で笑いが大事だと考えている人は、ほとんどいないのが現状です。
日本人は、仕事はシリアスにやらなければならない、真面目でなければならないというバイアスが強いですね。失敗を許されないというプレッシャーも影響していると思います。
さらに、新規事業や新しいアイデアを生み出したことのない人たちが、「新規事業とはこう生み出すものだ」と言って、審査しているという構造があります。大手から新規事業が生まれない理由は、ここにもあると思います。
社内ベンチャーを見ていても、3年程度で資金を回収してしまいます。それでは無理ですよ。余白や遊び心がまったくないのだと思います。
社内でアイデアを上げる際に、たたかれすぎて丸くなってしまうという問題もあります。僕にも経験がありますが、ブレストで新しいアイデアを出しても、世の中の常識にこだわりすぎているタイプの方が、すぐに収束させて調整しようとするのです。
それではアイデアが丸くなって、逆に差別化がなくなってしまいます。新しいアイデアを許容して、とがらせていかなければ伸びないのですが、ユーモアのないおじさんが、せっかくのアイデアを「みんなが好きな普通のもの」にしてしまうわけです。
本書に、アップル社のクリエイティブ・デザイン・スタジオでトップを務めた浅井弘樹さんが、「創造力の最大の阻害要因は、恐怖です」と語ったという話が紹介されていました。これは面白いですね。
クリエイティブなものを作るには、発言しやすい場づくりとして、笑いが重要だと思います。とくに新たなアイデアを出す場では、まず最初に心理的安全性や関係性の質を高めることが大事ですね。
私の知る会社ではこんなことがありました。
介護会社を買収したその会社では、当初は数字の話ばかりをしていて、従業員との関係がなかなかうまくいかず、どんどん疲弊していきました。
そこで、社長が、従業員たちに「やりがいを感じた話はなにか」を聞きました。すると、次々とお客さんとの感動的な話が披露されて、会議全体があたたかい空気になり、「お腹いっぱいになった」という声が出たのです。
やりがいや幸せというものによって、お腹が満たされるんだなということになったわけですが、そこで社長は、次回からみんなに白飯を持参するように言って、やりがいのある話をさせて、それで何杯の米を食えるのかという「白飯会議」をはじめたそうです(笑)。
ほかにも、関係性を高めてアイデアが集まるような風土を作る取り組みをしている会社は少しずつですが、出てきています。
陽気さは、会社のカルチャーにもなっていきます。カルチャーづくりは、上の人が陽気のマインドセットを持っているかどうかが重要です。営業部なら、営業成績ナンバーワンで発言権のある人が、いつも優しくてよく笑っているというだけでも変わるんですよ。
僕は、芸人から転職した会社で、カルチャーを変えました。若手の離職率が8割という会社でしたが、3年間ゼロにしました。
まずは雰囲気づくりです。面白いことを言うのではなく、職場に笑い声がよく響いているということから空気が変わっていきます。雑談が盛んに行われていることなどですね。
昔、炭鉱にはホラ話やふざけた話しかしない、「スカブラ」という雑談専門の職業の人がいたのですが、その人たちがいなくなると、現場の一体感と生産性がガクンと落ちたという話があります。
雑談は大事ですね。笑うと笑顔になって感情がわかりやすくなり、「あなたに対して好意的である」という自己開示の1つにもなります。
ハーバード大学の研究では、笑った後は、生産性が10%高まるとされています。生産性が落ちた社員に、漫才を見せてはどうでしょうか。誰の漫才でいちばん生産性が高まるのか、知りたいところです(笑)。
(構成:泉美木蘭)