「有能な人とは、質問がうまい人である」
インシアード(欧州経営大学院)のハル・グレガーセンは、十数年にわたって数千人のビジネスリーダーに調査を重ねて、そんな結論を出しました。
世界のカリスマ経営者に「普段からどのように考えているのか?」を尋ねたところ、世界的に成功しているリーダーほど、 「問い」のスキル が高いことがわかったのです。
調査の対象になった経営者は、シルク・ドゥ・ソレイユのダニエル・ラマールや、セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフといった、そうそうたるメンツばかり。その大半が、日ごろから商品の改善点を探していたのはもちろん、業界のシステムや自分の働き方、会社のルールにまで疑問を持ち続けたと言います。
この結果についてグレガーセンは、「創造性が高いリーダーは、あらゆるものに疑問を抱く。それゆえに市場の移り変わりにもキャッチアップを続け、新たな発明やイノベーションを起こし続けることができる」と指摘します。
確かに、環境が目まぐるしく変わる現代では、つねに自分の商品に疑いを持ち続け、新しい機会や可能性を見つけ出すしか生き残る術はありません。
専門知識の豊富な人材が求められたのは昔の話で、現代では「問い」のスキルを身につけた者のほうが成功しやすいようです。
さほどに「問い」が重要なのは、そもそも人類の脳が、質問によって世界を理解するように設計されているからです。
近年の発達研究によれば、一般的な4歳児は、1日で平均390回もの質問を親に投げかけます。まだ言葉を使えない幼児が町中の看板を指差し、「あれは何か?」と言いたげに大人の顔をうかがう様子を見たことがある人は多いでしょう。
人間は生まれた直後から周囲に強烈な好奇心を持ち、大人たちに質問をぶつけることで生存に必要なデータを集め出す生き物なのです。
他方でサルやチンパンジーには同じ現象が見られず、彼らがサバンナの果物を指差したとしても、それは「問い」ではなく、単に「あそこに食べ物がある」と仲間に示す意思表示でしかありません。すなわち、世界の不思議さに興味を持つ能力は、人類だけに与えられた特権と言えるでしょう。
「問い」の大事さを示す事例は無数に存在し、たとえばデル・テクノロジーズの創業者マイケル・デルは、創業時に「いまのコンピュータの価格が、全パーツを合わせた金額の5倍もするのはなぜだ?」という問いに取り組み、最終的に販売店を通さずに、客と直に取引するビジネスモデルを発案。劇的なコスト削減に成功し、わずか15年で会社をアメリカ市場1位に育て上げました。
同じように、セールスフォースの創業者マーク・ベニオフは、「多くの会社がネットを使わずにソフトをインストールしているのはなぜだろう?」との問いからビジネスをスタートさせました。この疑問を考え抜いた結果、ベニオフはクラウドコンピューティングの発想を思いつき、その後はフォーブスの「世界の革新企業ランキング」で4年連続1位に選ばれるほどの成長を遂げました。
そこまで大規模な例でなくとも、ふと頭をよぎった疑問から良いアイデアを思いついた体験は誰にでもあるでしょうし、難しい問題を解くために「逆に考えたらどうだろう?」と意図的に問いを立てる人もよく見かけます。詩人のE・E・カミングスが言うように、「美しい答えを得られるのは、いつも美しい質問ができる人」なのです。
そこで、イノベーションのため、「SEIQ」 という質問セットを使って「商品が刺さる本能の種類を増やすことはできないか?」を考えてみましょう。