前編記事では、心を壊してしまう人や環境について取り上げた。では、どのような思考や行動があれば、心身を壊さずに苦しい状況を乗り越えられるのだろうか。
「体調が悪いけど無理して会社に行く」「上司に理不尽なことを言われながら長時間働く」。ついそうしてやせ我慢しがちだ。
しかし、賢さを基準に考えるとどうか。
会社を休むことで心身ともに元気になるなら休む。または出勤してもさっさと帰る。信用できる第三者に相談したり、長時間働くことで効率が上がるのか考える。判断に迷ったときは、“生存確率が高いほう”を選ぶ。これが得策だ。
理不尽な発言に過剰な嫉妬。攻撃を避けるためには、植物も毒を出して身を守るように、「こいつに手を出したら面倒くさいぞ」と思わせるのが勝ち。
つらさに耐えても強くはならない。むしろ、つらいことがありすぎると性格がゆがむ。激務の部署で上司にいじめられまくっている人が、「成長できた」と思えるかといったら答えはノー。
場合によっては、ストレスレベルが高い職場から逃げるアクションも必要だ。
ただ、撤退するには元気なうちが鉄則。環境を変えるにはパワーやストレスが伴うためだ。
たとえば、明らかに会社がつらそうなのに辞めない。パートナーからDVを受けているのに別れない。決断するエネルギーが疲労しきった状態では理性的な判断はできず、ここにいたほうがいいかと思ってしまう。戦場や災害現場でもみられる心理だそうだが、元気なうちに判断することが大切だという。
打ちのめされて弱さやダメさを認めつつ、「自分はダメだ。だけどやる」と考える。この思考法は、自分への期待値を一度リセットし、ゼロから力強くスタートできるパワーがある。
自衛隊時代の訓練で、教官から「お前ら何もできないし、ダメだからやるんだろ!」と喝が入ることもあった。弱さやダメさを認めたうえで生まれるエネルギーは決して弱いものではない。今までのちっぽけなプライドを捨て、弱さを認めることで、結果的に賢くなれることがたくさんある。「弱いからやる意味がない」ではなく、「ダメな自分ができたらすごい」とポジティブに変えていくことがコツだという。
長距離走が早い、格闘技が強い、スキーがうまい、通信機の取り扱いがうまい、射撃がうまいなど、なにか特技があると自衛隊の中で重宝されたそうだ。
苦手なことがあっても、「まぁ、あいつ駆け足は早いからな」とカバーできるし、居場所を作りやすい。コミュニケーションが苦手な人も、一芸が秀でていることによって人から優しくされるシチュエーションもあるのではないだろうか。
穏やかで優しい人でも、疲労がたまるとつまらないことで感情的になったり、自己中心的になってしまう。それは、単にエネルギー不足なのかもしれない。