防衛大学に入った学生がまず学ぶことは、自分の弱さと、人と団結することだという。それを体にたたき込むため、自分、またはチームの誰かがミスをすればその都度、団体責任に。ぱやぱやくんも、その流れで懸垂や腕立て伏せを30~40回以上行うのもザラだったという(*当時)。
1年生の夏には東京湾を8キロ遊泳するという試練も。上下関係や寮生活のルールも厳しく、帽子の置き方、布団の畳み方などにそれぞれ細かいルールがあった。自己流で行うと「どうして言われたことができない!」と厳しい指導が入った。
防衛大を卒業して自衛隊員になった後も訓練は続く。
「100キロ行軍」という訓練では、20キロ弱のリュックを背負いながら長距離を歩き続けるため、足の皮がむけるという。また、真冬の北海道でマイナス20度の中を20キロ歩き続けたり、「防御陣地構築」という訓練では、スコップでひたすら穴を掘って陣地を作り続け、2夜3日から5夜6日かかるという。
訓練では灼熱の太陽の下に長時間おかれたり、大雨の中で泥まみれになることも。ほとんど水は飲めず、風呂も入れず、不眠不休の状態で行うような訓練がいくつもあった。
そうした極限状態に追い込まれると、普段穏やかで思いやりがある人でも人格が変わるとぱやぱやくんは言う。
勝手に水を飲んでしまう人。突然ご飯を食べ始める人。重い器材の運搬を誰かに押し付ける人。山の中なのに、「もう僕はダメだから辞めます!」と帰ろうとする人──。
想像を絶する試練を乗り越えながら、自衛官としての自覚を身に付けていくのだそうだ。
しかし、ここで気になることが。自衛官の面々は、過酷な訓練を乗り越えたから強くなったのだろうか。それとも、防衛大学や自衛隊に入った時点でそもそも強かったのだろうか。
「両方のタイプがいます。もともと強い人は、強豪校の高校球児や空手で全国大会出場する経歴を持つような、体育会系出身の人たちに多い。彼らは自衛隊に入って来た時点で身体能力が高く、はたから見ても規格外だと感じました。
一方、そこまでの身体能力が高くない人たちもたくさんいます。一般企業で働いていた人、元暴走族やフリーターなど多種多様でした」
また、自衛隊に入った動機も千差万別。「国を守るために!」「体力を生かして人の役に立ちたい」と意気込む人から、「彼女に振られたから強くなりたい!」「何となく面白そうだから」「本当は旧帝国大学に合格できるほどの実力があるけど、実家の家計が苦しいからきた」などさまざま。
そんな中でも、自衛隊でうまくやっていた人は、「国のために……!」という人より、「何となく面白そうだから」と入って来た人たちのほうが多かった。