「調べ方」を知っている人は、なぜ仕事も人生もうまくいくのか。先述したとおり、その背景にあるのは時代の大きな変化です。
現代社会は猛烈なスピードで進化しています。ビジネスにおいては、新しい商品やサービスが投入されてもすぐに陳腐化します。次々とアイデアを発想し、イノベーションを生み出さなければ、あっという間に取り残されかねない状況です。
また、AIの導入がますます進むと、さまざまな職業がAIに置き換わると予想されます。かつては、三代続けて同じ職業に就く人も珍しくはありませんでしたが、今では二代前の職業自体がなくなっている、あるいは一代前の仕事すら衰退している時代です。
このような状況にあって、私たち大人は、まず時代の流れを的確につかみ、思考して判断して、商品やサービスに結実させていく能力を身に付ける必要があります。
時代の流れをつかむ際には、「最近景気が悪い」などと思い込みのレベルで状況を把握せず、きちんとしたデータを調べ、ファクト(事実)を知らなければなりません。
2017・2018年3月に改訂された学習指導要領では、育成すべき資質・能力の3つの柱を次のように整理しています。
思考力・判断力・表現力がセットになっているところに注目してください。ひと昔前は、たくさんの知識を覚えて、答案用紙に忠実に再現できる子が「頭の良い子」とされていました。しかし、現在では自分自身で主体的に調べた情報をもとに考え、発表・行動していく探究学習が大きな柱となりつつあります。これはまさしく、先述した「思考して判断して、商品やサービスにつなげる(表現する)」を想定したものにほかなりません。
斬新な発想をしてイノベーションを起こすには「思考、判断、表現」を同時に行う必要があり、その土台となるのが「調べる力」なのです。
近頃は、ビジネスの場で「エビデンス」という言葉が頻繁に使われるようになってきました。
エビデンスは、もともと医療や学術分野で「根拠」という意味で使われてきた言葉であり、会議などで「その売り上げ予測にエビデンスはあるの?」「効果を証明するエビデンスを用意してください」というように使われています。
要するに、根拠となる客観的な事実を調べることの重要性が高まっているわけです。
一方、私たちはちょっとでも疑問に思ったことがあれば、すぐに手元のスマートフォン(スマホ)で検索することができます。
法律でも情報公開に関する制度が整えられ、手続きを踏めば政治や行政の決定プロセスを開示してもらえるようになっています。情報を調べるハードルは、時代とともにどんどん低くなっています。
調べることが重要になっていて、すぐに調べられる環境が整っている。
にもかかわらず、実は多くの人が調べる手間を怠っています。私は大学生や出版業界の方と接する機会が多いのですが、「どうして、みんなもっと調べないのだろう」と思う機会が多々あります。