そのルンバですが、もともとは軍事技術が元になって生まれた高度なロボットです。日本人はそもそも軍事技術については関心が低いかもしれません。一般的に言えば、一般家庭に入っている民生機器よりも企業のオフィスや倉庫、工場などで使われる産業機器のほうが高い信頼性が必要とされるものですが、軍事技術はその産業機器よりもさらに一段高い信頼性が必要とされます。逆に言えば軍で使われている製品は民生用機器よりもはるかに優秀なものです。
ルンバの場合は戦場での地雷探知ロボットの技術が転用されています。自律的に家の中を走り回りながら、家の地図を隅々まで自動作成する性能を持ったロボットがルンバです。そしてこれはAmazonがどうしても欲しい技術のひとつなのです。
ここから先は、欧米の規制当局とGAFAが真っ向から戦っている微妙な領域の話になるので、あくまで未来構想として話を聞いていただければと思います。
Amazon、Google、Metaの3社は本質的には「個人情報を法律に抵触しない形でどこまで詳細かつ正確に握るか」をめぐって競争しています。Googleは検索連動広告という技術を元に「自動車」と検索窓に打ち込んだ人は自動車を、「水着」と打ち込んだ人は水着を買おうとしている人だと先回りして判断することで、実際にその人が購買行動をする前に広告を提示できることを強みとしています。
MetaはフェイスブックやインスタグラムといったSNSへのエントリーやいいねを分析しながら、消費者がどのようなことに興味を持ち、どのような感情で何を欲しいと考えるのかをAIによる行動分析や性格分析といった観点から踏み込もうとしています。
そしてAmazonは伝統的には「これを買った人はこれも欲しいと思うはず」という購買履歴から個人の購買嗜好を理解しようとして発展してきました。
これら3社は違う形で同じように、個人情報をいかに賢く把握するかを巡って競争しています。そして将来の法律上それが許されるかどうかは別として、家の中にすっかり入りこむことを目指しているのがAmazonの「一般家庭のDX化商品ラインナップ」だと考えることができるのです。
近い将来、ルンバとAstroは融合して掃除以外のさまざまなアプリも搭載されたスマートルンバに進化するか、あるいはよりかわいらしいペットのような外見のロボットが家の中を歩き回るようになるかもしれません。
プログラミングなどしなくてもロボットに搭載されたカメラとAIの判断で家族がいない時間帯に家の隅々まで賢く掃除をしてくれるでしょう。ルンバのように家族の在宅中に大騒音を立てながら掃除を始めるような無作法はなくなる一方で、ごみは自分で捨てて、自分の体も自分できれいに洗うぐらいまで進化するかもしれません。
ペットロボットとしての未来のAstroないしスマートルンバは家主がいる間はペットのようにかわいらしく家主の近くを歩き回り、アレクサのように音楽をかけたりエアコンやテレビのスイッチをいれたり、天気やバスの出発時刻を調べてくれるでしょう。
Amazonに限らずIT企業が主眼とするのは、こうした形で家の中のDX化の中心となるデバイスのトップシェア企業になることです。そのためには高性能で安価で便利なAIとカメラ搭載型のロボットの開発競争で他社よりも先を進むことを狙うのです。
さて、世界中の大手IT企業がこのような便利なものを発売し、わたしたちの家庭は今よりもさらにずっと便利で安全な場所へと生まれ変わるでしょう。ただし知っておくべきことがひとつあります。