アマゾンがルンバを買う意図は思いのほか深い

アマゾン Amazon ルンバ?iRobot
あなたの想像よりもずっと怖いことかもしれません(写真:Michael Nagle、 Haruyoshi Yamaguchi/Bloomberg)

アメリカのIT大手Amazon(アマゾン)が家庭用ロボット掃除機「ルンバ」を発売するiRobot社を17億ドル(約2300億円)で買収すると発表しました。

このニュースについて日本のあるメディアは「Amazonが家電販売を強化するため」と報道しました。実際にはこの買収、そんなレベルの話ではありません。もっと深い意図があるはずの戦略と考えられます。

GAFA(Google、Apple、Facebook=Meta、Amazon)の一角であるAmazonが競合するGoogleやMeta(旧Facebook)との競合の中で、戦略的にiRobotを買収することにした。その結果、Google、MetaとAmazonのパワーバランスがまた崩れる可能性が出てきたということがこのニュースの本質だと私は捉えています。それを説明しましょう。

AmazonがiRobot買収で先手を打った意味

今回の買収のそもそもの背景はiRobot社の株価が2021年の2月をピークに長期下落傾向にあったことです。以前は36億ドルの企業価値があったIT企業が半額の17億ドルで買える水準になった。株価が下がった理由はこの先、中国の家電メーカーとの競争でルンバの売れ行きが先細りしていくことが予想されていたからです。

その観点でiRobotはいずれアメリカのIT大手のどこかが買収を仕掛けるのは必然だったのだと思います。しかし先手を打ったのがAmazonだったという点が重要です。

Amazonはeコマース、プライム、クラウドの3つの主力事業を持つIT企業です。一方で競合優位性という観点ではロボットとAIによるDX(デジタルトランスフォーメーション)に強みを持っています。Amazonの倉庫では商品を格納した棚がルンバのような走行ロボットで自在に動き回る構造になっていて、それが倉庫の生産性を劇的に向上させています。

Amazonのリアル小売店舗として知られるAmazon Goは無人コンビニと呼ばれる通り、店内には無数の監視カメラやセンサーが設置されていて、AIの判定によってレジを通さなくても誰が何を買ったのかが正確にカウントされる仕組みが確立しています。

そしてAmazonが次に狙っているのが一般家庭のDX化です。スマホで開錠できるAmazon Key(注:日本ではKey for Businessとして集合住宅向けに展開中)に交換してもらい、2018年に買収した見守りカメラのRingで家の中の安全を確認できるようにする。

家の中の家電はスマートスピーカーのアレクサ(Alexa)でコントロールしてもらう。2021年にテスト販売を始めたペットロボットのようなAstro(注:Amazonでは「用途を決めずに開発した」と発表)が家の中を歩き回り、大邸宅の場合はセキュリティをAmazon製の室内ドローンが担当するといった具合にさまざまな商品による家庭用DXラインナップを拡充しています。

このAstroというロボットはSONYのaiboのようなペット目的と、家庭で飼われている犬の古来からの役割である番犬の役割を果たすように進化する方向にあるように推察されるのですが、その開発が苦戦していたという情報が入ってきていました。

そこでルンバがAmazonの戦略上、必要になってきたのではないかというのが私の推理です。ちなみにAmazonは秘密主義で有名な企業なので、その戦略意図についてはどうしても推理が入り込まざるをえない点はあらかじめ読者の皆様にもご了承いただきたいと思います。