「数学嫌い」が見抜けない「平均値」の落とし穴

肝心の採用部署のリーダーは、この提案を見直すように求めました。彼女は即戦力が欲しかったからです。彼女の主張は、「今回は状況に鑑みて、各項目の比重は60%、10%、30%とすべきだ」と主張しました。その主張を採用すると総合評価は以下のように変化します。

Aさん:9×0.6+8×0.1+6×0.3=8.0
Bさん:7×0.6+9×0.1+8×0.3=7.5

つまり、元の数字が同じだったとしても、加重平均では重みづけ次第で結果は変わるのです。これが加重平均の難しいところです。

さらに、今回は候補者2人の各項目の点数は妥当という前提で話を進めましたが、人事部の若手メンバーの意見と、人事部長や事業責任者の意見をそもそも同じ重みで評価していいのかという問題もあります。実は二重に加重平均の妥当性の問題があるわけです。

ランキングを見る際には注意が必要

世の中にはさまざまなランキングがあふれています。そしてその多くは、複数の評価項目を加重平均した結果に基づいています。「住みやすい県ランキング」「魅力的な大学ランキング」などがその典型です。この東洋経済オンラインにも多数のランキング記事があり人気コンテンツとなっていますが、それも同様です。そうしたランキングを見る際には、生データの正確さはもちろんのこと、重みづけが妥当か、過度に恣意性が入っていないかにも注意が必要なのです。

さて、『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』では、統計学のすべてはカバーしていませんが、最も基本となる平均と標準偏差、確率についてはある程度解説しています。

それらの意味や落とし穴を正しく知ることは、「正しい意思決定をする」「だまされにくくなる」「頭のいい人に舐められなくなる(ちゃんと相手にしてもらえる)」など多大な効果をもたらします。ビジネスパーソンとしてサバイブする可能性を増すうえで必須の素養として身につけたいものです。