「数学嫌い」が見抜けない「平均値」の落とし穴

一般のビジネスパーソンが陥りがちな「平均」の落とし穴について解説します(写真: Chalirmpoj Pimpisarn/iStock/Getty Images Plus)
ビジネスパーソンが効率的に仕事を進めるうえで、数学の知識が必要になるケースは私たちが想像する以上に多くあります。
その一方で、「数学的な思考ができずに損をしているビジネスパーソンがあまりにも多い」と語るのが、日本最大のビジネススクール、グロービスで前身も含めて25年以上教鞭を執ってきた嶋田毅氏です。
新著『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』を上梓した嶋田氏が、一般のビジネスパーソンが陥りがちな「平均」の落とし穴について解説します。

多くの人は平均値を適切に使いこなすことができない

19世紀のイギリス首相ベンジャミン・ディズレーリは、「ウソには3種類ある。ウソ、まっかなウソ、そして統計だ」と言ったとされます。「統計」をウソに含めたのは筆者も納得感があります。事実、数学や統計を苦手とする人を、統計数字を用いてだますというやり口はあちこちで見かけます。

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巧妙なものになると、数学をある程度勉強した人ですら気がつかないケースもあります。これは間違った意思決定につながりますし、だまされ続けていると自分の立場もどんどん悪いものになります。ただ、経営大学院に来ている学生ですら、説明されないと気がつかないワナは多々存在します。

今回は統計の中でも、最も基本となる平均の落とし穴について解説します。

さて、平均値の最もシンプルかつ代表的なものは、サンプルそれぞれの数値を足してサンプル数で割った単純平均です。たとえば3人姉妹がいて、それぞれの身長が166cm、162cm、173cmであれば、平均の身長は(166+162+173)÷3=167cmとなります。日本人女性としては高身長の姉妹と言えそうです。

ビジネスでも、「営業担当者1人当たり売上高」「従業員平均勤続年数」「平均給与」などはよく用いられる平均値です。それと比較して「自分/自社は頑張っている」などと考えるビジネスパーソンは多いでしょう。

ただし、この平均値が往々にして誤って計算されているのです。次にそうした事例をご紹介します。

問①このワナに気づきますか?【難易度:低~中】

ある映画館において、その日訪れた入場者に「月に何回映画館に行きますか」というアンケートを取りました。サンプル20人の結果は以下のようになったとします。
1、2、1、1、3、2、1、30、1、1、2、1、2、1、25、1、2、1、1、3
さて、ここからあなたの部下は、映画館に来る平均回数を(1+2+1+1+3+2+1+30+1+1+2+1+2+1+25+1+2+1+1+3)÷20=82÷20=4.1回と計算しました。この数字は使い物になるでしょうか?
(なお、正式な調査では、統計学的に信頼度が高い数値を得るために必要なサンプル数は本来300から400程度は欲しいとされますが、話を単純化するために今回はその点は捨象します)

このケースでは、30回、25回と答えた2人の存在がやはり気になります。よほど時間のある映画好きか、職業的レビュワーの可能性が高そうです。この2人に引っ張られて平均値が上がってことに気づかれた方は多いかもしれません。

「異常値」ともいえるこの2人を除いた18人の平均は、27÷18=1.5回となります。こちらのほうがより実態に近いといえるでしょう。あるいは、順位で真ん中の中央値(このケースでは上から10人目と11人目の平均)の1回を採用するという方法もありそうです。