アマゾンを設立する前のジェフ・ベゾスは、自分のビジネスアイデアの成功率を3割程度と見積もっていた。
投資家に出資を募るとき、その情報はあきらかにネガティブだ。「正直に言えば、失敗すると思います」とみずから告白する起業家に出資する人などいないはずだからだ。
「成功確率3割」という情報をベゾスは投資家には知らせなかったのだろうか。
しかしベゾスは、成功の見込みが薄いと考えていることを隠そうとはしなかった。投資家に売り込みをするときはいつも「あなたが出資した金をすべて失う確率は7割ある。だから、それを覚悟できないかぎりは投資しないでほしい」と伝えていた。
アマゾンがどれだけ成長を続けても、ベゾスはこの会社の未来が不確実であることを正直に語り続けた。アマゾンの市場価値が世界一の企業になろうとしていた2018年秋、ベゾスは全社会議で社員にこう伝えた。
「アマゾンはいつか倒産するだろう。(中略)大企業の寿命はたいてい30年強しかない。100年以上も続くケースは“まれ”だ」
一般的には、自信がある人ほど、影響力が大きいと思われている。「自信は磁力のように他人を引きつける。誰もが、自信がある人の話に耳を傾け、その人に従おうとし、信頼しようとする」と。
しかし、知的に誠実であるほど、あらゆることに確信を持つのは不可能になる。ジェフ・ベゾスの例が示すように、ちまたにあふれる「自信があれば影響力が高まる」式の定説は、実は正しくない。
「自信」という言葉には、大きく2つの意味が含まれている。
1つは、「知識に対する自信」である。つまり、何が事実かをどれだけ確信しているかということだ。
「彼がうそをついているのは99%間違いない」「これがうまくいくことは保証する」「次の選挙であの政党が勝てるわけがない」といった言葉で使われる自信である。
もう1つは、「対人関係に対する自信」だ。これは「自己肯定感の強さ」の表れだとも言える。人前で堂々と振る舞ったり、集団内に自分の居場所があると感じられたり、「他人が自分の話に耳を傾けてくれている」と実感したりするとき、人はこの自信を感じている。
「知識に対する自信」と「対人関係に対する自信」は、混同されがちである。
たとえばチームを叱咤激励しながら「絶対に成功する」と言っているリーダーのような、両方のタイプの自信を持っている人は想像しやすい。
同じく「えーと、何をすればいいのかよくわからないのですが……」と不安そうに口ごもる、両方のタイプの自信がない人の姿も想像しやすい。
だが、「知識に対する自信」と「対人関係に対する自信」という2つの自信はセットである必要はない。