昨今、よく話題になる「あおり運転」。ほかの車両の通行を妨害し、重大な交通事故にもつながる危険な行為だ。この問題をとことん考える短期集中連載の第2回。第1回「あおり運転『あおられる側』が意外と知らない事実」に続いて、今回は、誰でも無理なくできる「あおり/あおられ運転の回避術」について読者の皆さんと一緒に考えてみたい。
真っ先に実践できることは、ひとつ。後続車が尋常でない猛烈な速度差で接近してきたら時間をおかず、その車両に進路を譲ることだ。自分が正しい運転方法で法令遵守をしていても、だ。
お示しした回避術に多くの賛同が得られないことは承知のうえで申し上げた。しかし、正論が通りにくくなっている世の中だ。後続車には特別に急がなければならない理由があるのだと、自身を納得させれば腹も立たない。「怒り感情のセルフコントロール」と呼ばれる領域だ。筆者は「あー、トイレに駆け込みたいんですねー」と解釈している。
冗談はさておき、誰でも後続車からあおりを受けるなど、圧迫感をもって迫られれば「一時は気分を害する」。が、譲ってしまえば「安心は長く続く」。統計上、高すぎる走行速度は事故率が上がり、事故発生時の被害も大きくなることがわかっている。急ぐからには相応のリスクを背負う覚悟がある、もしくは、そのリスクに気づかず飛ばしていると考えよう。君子危うきに近寄らず。
とはいえ、1車線しかなくスムーズに譲ることができず、自車前方が混雑している場面などにも出くわすだろう。その際は、混雑状況が後続車からも確認できるように、車線内で少し左(後続車が左ハンドルであれば少し右)に寄って、前方の交通環境を後続車と共有するといい。
前走車に追いついた際、後続車のドライバーはこう考えるだろう。「なぜ交通の流れが滞っているのに速度を上げないのだろう」と。そして、その理解が進まない限り、後続車のイライラは募るばかりだ。
追いつかれた前走車のドライバーには、後続車のドライバーが抱く感情がうまく伝わっていない。単純に後続車の存在に気がついていない場合もある。なかには、「自身は法令遵守して安全運転しているのだから後続車のことなどお構いなし」とするドライバーがいないとも限らないが、ほとんどの場合、双方に悪気がない、と思う。相互理解の欠如が原因だ。
次に、あおり/あおられ運転を速度(車速)の側面から考えてみたい。公道には法定/規制速度があるが、もうひとつ実勢速度という尺度がある。これは状況に応じた交通の流れのことで、警察庁交通局は規制速度のほかこの実勢速度にも触れている。
「日本では、ほぼすべての道路が居住行動圏内にあり、実勢速度を規制速度にすると交通事故が増加する恐れがある。よって実勢速度である『85パーセンタイル速度』に、交通事故抑制の観点を考慮した全国一律の規制速度の基準となる速度、いわゆる『基準速度』を導入する」(警察庁の発表資料より)
85パーセンタイル速度とは、ある地点を走行する車両群の累積百分率の85%にあたる速度のこと。ある車両群の累積百分率が70㎞/hだとすると85パーセンタイル速度は59.5㎞/hだ。これが実勢速度で規制速度を決める基準のひとつになっている。ここから、85パーセンタイル速度から自車速度が大きく上回ったり下回ったりする、つまり速度差が大きくなるとあおり/あおられ運転につながりやすいとも推論できる。