2022年6月15日、ピーター・スコット-モーガンさんの肉体が安らかに息を引き取られたと、ご自身のTwitterで報告がありました。ご家族、ご近親の皆様に心からお悔やみを申し上げます。
ピーターさんの「肉体」とあえて記したことを、関係者の方々には許していただけるかと思います。
たとえ身体が旅立ったとしても、彼の精神(スピリット)が生きながらえることは、私を含めた支持者の願いであり、ご本人の遺志でもあったからです。しかも二重の意味において。
ピーターさんは、身体を次第に動かせなくなる難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患いながら、暗転した運命に果敢に立ち向かってきました。彼の武器は最先端のテクノロジーでした。衰えゆく肉体の機能を人工知能(AI)とロボット技術で補う人類初のサイボーグ、「ピーター2.0」として生きる道を選んだのです。
その帰結の1つが、彼自身とAIとの融合です。ともに生きるにつれて彼の思考法や感じ方を学んだAIが、次第に本人と見分けがつかなくなる将来を思い描いていたのです。
ピーターさんの生き様を記した著書『ネオ・ヒューマン 究極の自由を得る未来』では、肉体を失った後もAI「ピーター3.0」として生き続ける決意を表明していました。ピーターさんのパートナーであるフランシスさんは、「AIを愛する史上初の人間になる」とまでおっしゃっていたほどです。
現在の技術が、彼のアイデアに追いつけたのかどうかはわかりません。2022年6月末現在、ご本人のTwitterの更新は止まったままです。それでも、AIとしてのピーターさんがプライベートに活動している可能性は否定できませんし、彼自身のケースが時期尚早だったとしても、AIによる人格の継続という構想は、後進の研究者に必ずや引き継がれていくはずです。
ピーターさんの遺志を継ぐという、もう1つの意味でのスピリットの継承は確実に果たされていくことでしょう。数々の開発の主体として立ち上げた財団「スコット-モーガン基金」の活動にとどまらず、彼の精神は難病に苦しむ多くの方々、医療関係者、さらには研究者やエンジニアにも影響を与え続けています。
私自身、そう感じます。ご著書を読んだ以外は、NHKの「クローズアップ現代」に出演したご縁で会話を交わしたくらいの間柄ですが、「ピーターさんならこう考えるはず」「彼ならきっとこうする」と、ビビッドに思い描くことができます。彼の思想に共鳴する誰しもが、そうでしょう。いわば彼の「分人」は、フォロワー1人ひとりの心に今も息づいているのです。
ピーターさんはその生涯を通じて、世の中の固定観念をいくつも覆してきました。言葉を換えると、確かにあるにもかかわらず、多くの人には不可視だった人間社会の壁と、一生を通じて戦ってきたとも言えます。ALS、そして肉体の死を巡る攻防は、その1つにすぎませんでした。