と、たしかにこんな心理状態では、デートどころではない。もはやその場の空気に対処することに精いっぱいで、相手のことは目に入っていない。デート後も疲労感でいっぱいだ。そして何より、そんな自分を容易に想像できるから、最初からデートしようとは思わない。
実際、どのくらい今の日本の若者が自分に自信がないかを示すデータは枚挙に暇がない。例えば、2019年の日本財団の若者に対する調査によると、「自分で国や社会を変えられると思う」にYesと回答した割合は18.3%(アメリカ65.7%、中国65.6%)だ。
また2019年の国立青少年教育振興機構の調査によると、「自分はダメな人間だと思うことがある」に「よくあてはまる」「まあまああてはまる」と答えた割合はなんと80.8%(アメリカ61.2%、中国40.0%)だ。この値は2015年には72.5%だったから、日本の若者のダメ人間思考はさらに強まっていることになる。
もっと身近で、かつ本稿の主題に沿うところで見てみよう。私の研究室が2020年に行った大学生・大学院生281名に対するアンケート調査では、自分の見た目に自信があるかという問いに対して「ある」「少しある」が17.4%、「ない」「あまりない」が45.6%であった。同時に、自分のセンスに自信があるかという問いに対し「ある」「少しある」と回答した割合は26.7%、逆に「ない」「あまりない」とした割合は40.0%となる。
このような自己肯定感の低さが積み重なった結果、今の若者は次のような傾向を示す。
あきれを通り越して、恐ろしい状況になりつつあるが、そもそもいつからこのような心理的特徴が強まってきたのか。
私は、2010~2012年頃だと思っている。根拠となるデータはやはり枚挙に暇がない。たとえば、大学生が就職先を選ぶ理由として「自分のやりたい仕事ができる会社」が低下し始め、その代わり「安定している会社」が上昇し始めたのも(マイナビ 2022年卒大学生就職意識調査)、新入社員にとって「仕事が面白い」かどうかは重要ではなくなったのも(日本生産性本部 平成31年度 新入社員「働くことの意識」調査)この頃からだ。
2010年代以降に20代を迎えた彼らは、児童・生徒のときに教育環境の変化も経験している。いわゆるゆとり教育の導入だ。このとき改訂された学習指導要領は、1993年から2010年にかけて小学校へ入学した児童に適用されており、この世代がちょうど今、20代を丸ごと形成している。
恋愛に関しても、時期が符合するデータがある。たとえば、日本性教育協会が6年ごとに調査している「青少年の性行動調査」によると、2005年調査までは性交経験率は上昇していたが、2011年調査から男女とも低下傾向に転じている。
むろん、これらのデータを構成する要因は多様で複雑だ。ただ、ここまで多くのデータが歩調を合わせたようにタイミングを同期させていることを鑑みると、「いい子症候群」的気質が恋愛や結婚にも強い影響を与えていると考えざるをえない。
ここまで読んだ方は、今後この傾向はどうなるのか、も気になるだろう。私が主に研究対象としているのは大学生から20代であるため、現在、10代の性向をよく知る人たち、つまり中学校・高校の教諭や教育関係者との対話を精力的に進めている。
ただ、今のところ、子供たちの主体性を重んじた教育方針を強めているにもかかわらず、いい子症候群的気質が変わる兆しはなく、むしろ強化されている状況も見られる。今なんとかしなければ、今後しばらくは「いい子」を装った指示待ち人材が大量に産業界へ送り出され、若者の婚姻率は下がり続けることになるかもしれない。