また、加害の危険度が高い場合には地方評議会や裁判所へ連絡することや、事後フォローの仕方も5項目にわたって述べられています。
確かに、この10年の間に学校でのいじめ撲滅の措置が取られていることを実感することがありました。
知人の話ですが、彼女の娘さんが中学生の頃、3人の女友達から急に意地悪をされたり、無視されることが続いたことがありました。娘さんからその事を聞いた彼女は、事情を説明するためすぐに担任の先生と面談の約束をとりつけたそうです。
彼女が面談で学校を訪れたとき、偶然にもくだんの生徒3人とすれ違ったのですが、彼女はいつもと変わらぬ態度でその生徒たちとあいさつを交わして、担任の先生との面談に臨みました。驚いたことに、その面談の数時間後には彼女の娘さんとくだんの生徒3人、担任の先生と生活指導の先生とを交えた面談の場が設けられたのだそう。
エスカレーター式のその学校でいじめ加害者のレッテルを貼られることがどういうことになるのか、3人のうちの1人はすぐに気がついたようで、彼女の娘さんにその場で謝りました。ほかの2人は、娘さんの態度に不満があったといった旨を口にしながらも、最終的にはもういじめをしないと約束したそうです。
「報復のようなことにはならなかった?」
私の問いに彼女は首を振り、いじめ加害者の生徒たちが彼女の姿を校内でみとめて、その数時間後に面談に召集されたことで、いじめ問題には親や学校がすぐに立ち上がることを痛感したのだろうと言っていました。国が学校に課した規定にあるように、事後フォローが厚いことも、再発予防に貢献しているのかもしれません。
こうして国が対応策を定め、学校や地方教育委員会の専門官と連携してきたのにもかかわらず、実はいじめ被害者数が減ることはありません。フェイスブックやスナップチャットといったSNSで、当事者以外に気づきようのないいじめが急増していることが主な要因です。その被害は2015年には4.1%だったのが、2018年には倍以上の9%に増加しているのです。
また、学校でいじめに遭っている生徒の22%が誰にも打ち明けられないという調査結果も出ています。学校にいじめの事例を通告するのを躊躇する場合や、通告しても学校の対応が不十分な場合には、通常のいじめとネットいじめ、それぞれ無料電話相談窓口にかければ、いじめ専門官による助言を受けられます。
具体的な対策が必要と判断されれば、相談者の通う学校にはもちろん、全国31の地方教育委員会に報告されます。
2021年には3歳から23歳までのいじめ被害者を対象とした保険も売り出されました。3歳からという低年齢に驚かされますが、月額1,50ユーロ、年額18ユーロという低価格で法的保護や治療的サポート、いじめによる学校中退者には個人授業への財政的サポートなどが提供されています。ネット上に書かれた悪い噂や評判をも一掃することが可能とのこと。
同じくネットいじめが加速する日本でも適用できるのではと思いました。
こうした、いじめ問題に対するフランスの本気の姿勢を最終的に明示したのが、学校でのいじめの“厳罰化”です。
例えば、いじめ被害者を自殺、または自殺未遂に追い込んだ場合には、最高で懲役10年と15万ユーロ(約2085万円)の罰金が科されるといった容赦のない罰則は、日本のメディアでも驚きをもって報じられていました。
この罰則にはフランス国内でも厳罰化の効果を疑問視する声があがっていますが、フランスが世界で最も厳しいいじめの罰則を敷いた事を、ブランケール教育相は「共和国の価値観を徹底させるための手段」と言っています。
厳罰化がいじめ防止につながるかは注視が必要ですが、“共和国の価値観” をここまで鮮明にする姿勢には、「いじめ防止対策推進法」の法令の遵守ですらあやふやな日本の国籍を持つ者として、胸がすく思いがするのです。