これが「テキシリ」の段階です。彼は、そうして浮かんだ凡庸な言葉を巧みに避けています。
その発想法は、そのままこの曲の歌詞にも反映されています。「一切合切凡庸な」「その可もなく不可もないメロディー」「二番煎じ言い換えのパロディ」など、彼は凡庸な表現に敏感で、それを意識的に回避して自分の表現を発想しています。
彼は、わざわざ「シロカベ」に張り出すことはしなかったかもしれませんが、スマホやパソコンに浮かんだ言葉を書き並べたかもしれません。自分の頭の中に浮かんだアイデアを一度どこかに吐き出したはずです。
そうして、最後に「ソギキリ」。たくさんの言葉をそぎ落とし、ベストなものを選択したのです。それが、「うっせぇわ」という相手や社会を全否定する心の中のつぶやきです。このシンプルで鋭角的なフレーズを、しかもリフレインするアイデアを思いついたとき、ヒットは約束されたと言っていいでしょう。
「アイデア生産の4つの工程」を意識することなく高速処理できる人がヒットメーカーであり、アイデアマンなのです。
もちろん、私たち普通の人間は、ハエにはなれません。syudouにもなれません。
しかし、あきらめる必要はまったくないのです。
もう一度、ハエの画像処理能力を思い起こしてください。人間の約4倍の処理能力を持っているハエは、世界がスローモーションに見えています。
私たち普通の人間は、ヒットメーカーやアイデアマンのように準備工程を高速処理してアイデアを生み出すことはできません。
それでいいのです。それを逆手にとればいいのです。
スローモーションの側の私たちは、時間をかけてヒットメーカーやアイデアマンの認識処理に追いつき、アイデアを生み出せばいいのです。
通常、アイデアが求められる場面は、その瞬間ではありません。テレビの「大喜利」であれば、その一瞬に答えが求められますが、ビジネスにおいては、必ずスケジュールが組まれるはずです。つまり、事前準備をする時間が与えられるはずです。
瞬間芸でなくていいのですから、「閃かない」「才能がない」と最初からあきらめる必要はまったくないのです。しっかりと時間をかけて準備をすること、これが大切です。
もちろん、アイデアを生み出すには、「センス」「知識量」「経験値」も大切です。しかし、私はアイデアを生むために必要なものの中で、「センス」「知識量」「経験値」は20%程度だと思っています。重要なのは、「アイデア生産の4つの工程」であり、これが全体の80%を占めていると思っています。アイデアは、発想する前の準備にかかっていると言っていいでしょう。
逆に言えば、「センス」「知識量」「経験値」だけあっても「4つの工程」を踏まえなければ、ヒットするアイデア、採用されるアイデアは生まれません。
そして、あきらめることなく時間をかけて4つの工程を進むことさえすれば、面白いアイデアを生み出せる可能性は一気に上昇します。
もう一度、考えてみてください。
アイデアを生むための準備を怠りながら、「閃かない」「才能がない」と自ら可能性を閉ざしていませんか? ヒットメーカーやアイデアマンになれる可能性の種を、自ら枯らしていませんか?