皆さんもよくご存じだと思います。ビジネスのあらゆるシーンにおいて、優れた「アイデア」こそ状況を変革できる唯一のものだと。製品開発はもちろん、企画でも、営業でも、面接であっても、ほかにないオリジナルなアイデアこそ最強です。
そこで、一生懸命アイデアを捻り出し、会議や発表の場で披露するのですが、なかなか採用されない。提案が受け入れられない。企画が通らない。
「なぜだろう? 良いアイデアだと思ったのに」と悔しい思いをすることがあるでしょう。長い時間と大きなエネルギーを注ぎ込み、自信を持って披露したのですから当然です。
そんなとき、「相手が悪い」「私よりも相手はわかっていない」など、提案先を責める人が多いようです。
これまで300回以上の企画競合の場を経験してきた私も、初期のころは同じでした。「こんな素晴らしいアイデアが、なぜ通らないんだ?」「提案相手が悪い。理解が足りない」と相手を責めました。あるいは、そんな相手に当たってしまったのは「運が悪い」と嘆いたりしました。
しかし、そうでしょうか? 悪いのは相手なのでしょうか? そんな相手に出会ったのは運がなかったのでしょうか?
残念ながら、相手のせいにしているかぎり、アイデアが採用されることはありません。
あらためて、考えてみてください。
「アイデア」と「思いつき」、その分岐点はどこでしょうか?
両方とも、頭の中で「閃く」という意味では同じものかもしれません。しかし、根本的な違いがあります。
それが「相手」の存在です。
「アイデア」は外に開かれたものです。「思いつき」は内に閉じられたものです。
「アイデア」は人を幸せにします。「思いつき」は自分しか幸せになれません。
「アイデア」は必ず相手が存在します。「思いつき」は自分しか存在しません。
つまり、「相手があってこそのアイデア」なのです。
見方を変えれば、「アイデアは相手との共同作業」と言っていいでしょう。あなた1人で成立するものではないのです。
いや、そんなことは十分にわかっているとあなたは反論するかもしれません。しかし、「なぜ自分のアイデアが採用されないんだ」と腹立たしく思っているとき、あなたの中で相手は消えているのです。相手との共同作業ではなくなっているのです。
私にも経験があります。
施設の展示映像に関する企画コンペでした。施設にはいろんな人が見学に訪れると思った私は、「いかにしてわかりやすく施設を伝えるか」を主軸にアイデアを考え始めました。
施設の目玉は巨大なタンクです。そのスケール感を伝えるには何かと比較するのがいちばんです。そのタンクの容量を、私たちがテレビで見慣れているオリンピックプールと比較するアイデアを思いつき、「オリンピックプールの10倍もある」と、プールをCGで10個並べて視覚的に伝える方法を企画しました。