大企業→中小のミドル転職が成功しない本当の訳

40代以上のミドル転職が急増する中、思わぬ問題も起きています(写真:bee / PIXTA)

「大企業から鳴り物入りで転職してきた部長が、わが社で孤立している」

ある日、従業員200名程度の広告代理店の社長に、こう言われた。営業組織のテコ入れのために、名高い大企業から招へいした。にもかかわらず、マネジャーは機能していないと言う。

「私の責任です」

落胆した表情で社長は言う。

「優秀なマネジャーがやって来ても、変化できない組織にしてしまったのは」

と。だが私は迷わず、こう言い返した。

「単に、その部長に実力がなかっただけでしょう」

すると、社長は驚いたように私の顔を見た。

「大企業でマネジャーをやっていた人の採用は、要注意です。力がない人が多いですからね」

急増する「ミドル転職」

大企業からの「ミドル転職」が急増している。41歳以上の転職者数が、(2022年度までの)5年間で2倍近くなっている。急速に産業構造がシフトするなか、40歳以上の人材に「早期退職」を促す大企業が増えているせいだ。経験豊富なベテラン人材が転職市場を賑わしている。

実際に、私どもコンサルタントが支援する先(中小企業)にも、大企業からの転職組が相当数流れ込んできている。

先述した社長は、ハイクラス人材を扱うサービスを活用し、大手広告代理店を早期退職した営業部長(43歳)を採用した。

実績は十分である。SFA/CRMといったセールステックをフル活用し、30名いる営業組織を統率して5年連続の増収に貢献した。データ分析が得意で、どのタイミングで、どのお客様に、どのようなソリューションを提案すると、受注率が高まるのかを測定し、「ムダ撃ち」させない営業活動を確立させた。

4月11日発売の拙著『新時代の営業「変わること」「変わらないこと」を1冊にまとめてみた』では、それぞれ「変わることランキング10」「変わらないことランキング10」が収録されている。

この「変わることランキング10」で、ダントツ1位だったのが『デジタルシフト』であった。営業第一人者18名にインタビューした結果、大半の人が1位に推した。

経験と勘と度胸(KKD)で営業する時代は終わっている。

データを分析すれば、かなり高い精度で予測することができるようになった。今期の目標を達成するために、今どれくらいの案件が積み上がっていないといけないか。それを怠れば、どのような着地ラインが予想されるか、わかるのだ。

これまで2~3日かかっていた与信診断が、現在はAIの進化によって1時間近くまで短縮されている。そんな時代だ。だから、当然「着地の読み」も人間がやるより正確に、そしてスピーディに実現されるようになった。

新時代の営業「変わることランキング10」の第9位は『マネジメントの高度化』。

AIを駆使し、意思決定を補ってくれる環境はすでに整っている。たとえばマネジャーが意思決定する際、3つの選択肢を提示してくれるシステムがあれば、マネジメントはずいぶんとラクになる。部下を育成したり、リーダーシップを発揮するためには人間が必要だが、マネジメント業務に絞れば、人間がやるべき作業は減っている。

高度な「カーナビ」のようなものだ。目的地を入力するだけで、最適なルートを瞬時に検索してくれる、そんなナビが搭載された車なら、運転手のストレスは、かなり低減されることだろう。運転手の嗜好や運転のクセなどをAIが学習し、その都度最適なルートをも提示してくれるようになる。

あっけにとられる「ミドル転職」マネジャーの言動

大企業と比べ、中小企業のデジタルシフトは、かなり遅れている。2021年の調査では、中小企業経営者の7割近くが「DXを知らない」という衝撃的な結果が出ている。ホワイトカラーのデジタルシフトは、とくに遅れていると言われる。