[第2回]
高橋 源一郎(以下、高橋):ぼくは今「ヒロヒト」という小説を連載しています。つまり昭和をテーマにしているんですが、通常の年表ではなく、自前の年表を作っていたら気がついたことがあります。昭和のほんとうの起点は大逆事件じゃないかって。明治天皇の暗殺を企てたという容疑で幸徳秋水をはじめとするアナキストが検挙され、後に処刑された大逆事件で、これが1910年。関東大震災が1923年、太平洋戦争の終戦が1945年、昭和天皇が亡くなったのが1989年。ざっと80年です。
斎藤 美奈子(以下、斎藤):おおよそ10年、30年ごとに何かが起こってる?
高橋:そう。1989年は昭和天皇崩御の年なんですが、ベルリンの壁が崩壊した東西対立解消の年でもあって、ルーマニアのチャウシェスク独裁政権が崩壊、それから天安門事件もあった。
斎藤:ひとつの時代が、あんな形で一斉に終わるなんて思ってもみませんでしたね。
高橋:そうですね。バブル経済が崩壊するのは1992年頃だから、日本はまだ景気がよかった。1989年12月の株価なんて3万8000円台ですからね。世の中が浮かれてた。当時の日記が残っているんですが、楽しそうなんですよ(笑)。
斎藤:バブル真っ只中。マハラジャ(ディスコの店名)の時代ですから。
高橋:そして、1989年を起点に現在までたどってみると、2001年にアメリカ同時多発テロ、2011年に東日本大震災、2020年に新型コロナウイルス禍。
斎藤:そっか、戦後の2周目が終わろうとしてるんだ。戦争が終わってだいたい30~40年かけて繁栄し、30年かけて衰退している。
高橋:折り返しかよ! ですね。
斎藤:司馬遼太郎史観は、明治維新から日露戦争までが上り坂、その後から下り坂になって太平洋戦争で自滅したっていう話ですよね。半藤一利さんの『昭和史』(2004/平凡社ライブラリー)も40年周期説で、近代のスタートから40年ごとに盛衰を繰り返しているというしね、柄谷行人さんはたしか歴史は60年周期で動くと言っていた。
高橋:サイードは、人間がほんとうに理解できるのは、自分の身体性から考えられることだけだと、言っています。例えば、人間の作るものに「はじまり」があって「終わり」があるのは、人間が生まれて死ぬからだと。もしかしたら偶然なのかもしれませんが、歴史に周期性があるのも、というか、そこに周期性を見いだしてしまうのも、自分の身体性から考えてしまうからなのかもしれない。それにしても、だいたい75年前後で大きな周期が終わるように見えるんですよね。
斎藤:一生と同じぐらいの時間ということね。