人生うまくいかない人は「自己表現力」が足りない

社会で人とつながって自己実現していく人間の運命や根源的仕組みを考えるとき、心の中の思いは自分が「伝えた」と思っていても相手にその意図どおりに「伝わって」いなければ、意味がないのです。

パフォーマンスとはなにか?

「表現されない実力は、無いも同じである」

この考え方を土台として、私はもう40年以上もの間、自己表現の科学的研究と教育を目指してパフォーマンス学(後にパフォーマンス心理学)を専門にして、実験を繰り返し、データを集積してきました。

私とその仲間たちは、パフォーマンスを「目的に沿って、意図され組みたてられた自己表現」と定義しています。パフォーマンス学のアメリカにおける創始者の1人、社会学者(後に社会心理学者)E・ゴッフマンの言葉をどうぞ。

「あるパフォーマンスとは、ある特定の機会にある特定の参加者が何らかのしかたでほかの参加者のだれかに影響を及ぼす挙動の一切」

「パフォーマンス心理学」は、たくさんの実験や研究データに基づく自己表現研究のサイエンスです。

そこで、私が1998年から23年間にわたって開発・研究・データ採集を続けてきた「PQ」を、初めて広く読者の方々に公開することにしました。この公開に踏み切った第1の理由は、実際に私のセミナーに来たり個人指導を受けたりすることができない多くの方々に、テストを通じてより正確にご自身の自己表現力を測定して、さらなる自己表現力の向上を実現していただきたいという切なる願いからです。

まずは簡単に、冒頭のアリストテレスの言葉を、IQとEQとPQの3つの力に分類してみます。

・「然るべきことがら」が何で、「然るべき人」が誰であるか理解できる力 ⇒IQ
・怒りの感情処理と「穏やかな人」という気持ちがわかる力 ⇒EQ
・「然るべきしかたで」⇒表現技法選択のPQ
・「然るべき時に」⇒表現のタイミングをつかむPQ
・「然るべき間だけ怒る」⇒1つの表現の所要時間を決めるPQ

IQとEQだけではなく、PQの姿が見えてきましたね。

では、身近な例として、例えば昨日のあなたを思い浮かべてください。一日の仕事も終わろうという16時半ごろ、上司であるあなたは、部下が取引先の仕事をやり残しているのに気づきました。そこで、

あなた「昨日指示した仕事だけど、『早急にやっておいてね』と言ったよね」

部下Aさん「ナルハヤってことでしたよね。急いでやってますよ。でも今日は無理ですよ」

あなたの内なる声(この表情から見ると、今日は残業したくないのかな。「明日、何時何分までに、計画書に書かれた項目ごとの予算を出して、その合計をA4サイズ1枚にまとめてね」と言うべきだったのか……疲れるなあ……)

やはり「伝えた」と「伝わった」は違うのです。上司のあなたには、理解力の違う相手に的確に合わせた表現を選択するPQが必要でした。

さらに、国際舞台でのビジネスで相手が異文化の人間だと、このやりとりはもっと複雑になります。私の講座を訪ねてきた2人の優秀なビジネスマンの失敗例をご紹介しましょう。

契約以上を期待する日本人

1人はエンジニアのTさんです。日本の半導体の会社で活躍している実力者で、研究論文もあります。

彼は、アメリカでオンライン開催された半導体関連の国際会議に講師として招聘(へい)されたので、プログラム記載どおり、40分のプレゼン時間に合わせて入念に原稿を用意しました。

しかしその後、主催者側は質疑応答8分を含む40分に変更し、これをホームページに記載。彼はその情報を見落としていて、直前に気になって自分のほうから確認メールをし、初めて変更が判明しました。Tさんは抗議をします。

「8分縮めるならきちんと個別メールしてほしかった」