電通は毎年この時期、前年の日本の広告費を推計して発表している。その2021年版が2月24日に出た。
日本の広告費全体は10%増の6兆7998億円と、コロナ禍により大きな痛手を受けていた前年に比べ回復した。また、そのうちインターネット広告費は前年比21%増の2兆7052億円となり、「マスコミ4媒体」(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)の2兆4538億円を初めて超えた。
ただ広告費全体の「回復」は、コロナでどん底だった2020年に対してであり、その前の2019年には戻せていない点に注意が必要だ。また、全体の数字を上げているのはインターネット広告費の成長であり、マスコミ4媒体が喜べる状況ではない。
インターネット広告費はまず2009年に新聞広告費を超えた。10年後の2019年にはマス広告の本拠地であるテレビ広告費を超えてしまった。残りの雑誌、ラジオ広告費は金額が小さいので当然だが、それからたった2年でマスコミ4媒体全体より大きくなったのだ。
何しろインターネット広告費はマスメディア(マスコミ4媒体)広告費がコロナ禍で急落する中、多少伸び率が小さくなっただけで相変わらずぐんぐん伸びていた。2021年はテレビ広告費がやっと2020年の水準に戻せたかどうかという中、さらに加速度的に伸びたのだ。グラフにすると、登るには急すぎる坂ができる。勢いを増して昇り龍の如く天を目指しているようだ。
2021年、マスメディアはインターネットに負けたのだ。負けた、とはどういうことか、いくつかの視点で考えてみよう。
広告業界の視点では、こう捉えられる。「テレビと新聞」が「テレビとネット」になり「ネットとテレビ」になった。
ほんの15年ほど前までは、テレビと新聞が広告メディアのいいコンビだった。1975年にテレビ広告費が新聞広告費を抜いた後も、この2つのメディアは広告キャンペーンを支え合って成長してきた。テレビCMが派手なアイデアで世の中を賑わせ、新聞広告では同じタレントとキャッチコピーを使いながら詳しい情報を伝えた。互いに役割を補完し合い信頼し合っていた。2000年代前半で見ると、テレビ広告費2兆円に対し、新聞広告費1兆円。1兆円差のコンビだった。
2008年のリーマンショックで企業が広告費を減らしてマスメディアが一様に大打撃をくらった後、2009年に新聞広告費がインターネット広告費に抜かれ、少しずつテレビと新聞の関係は薄くなった。新聞広告は気がつくと広告キャンペーンから外され、電話番号を大きく記した健康食品などの通販型だらけになっていった。1軍からいきなり3軍に飛ばされたようなものだ。
新聞に代わってインターネット広告が1軍に躍り出た。テレビをあまり見ない若者層に、テレビCMが届かないのを補うために使われた。効果が本当にあるのか、しつこいターゲティングしてくる、知らない間にやばいウェブサイトにも表示される。そんな文句を言われながらも、数字で結果が見られるのを強みにぐんぐん伸びていった。使い方もさまざまなテクノロジーを駆使し、動画のメニューも増やして幅を広げた。テレビといいコンビとは言えなかったが、テレビの足りないところをうまくカバーしていた。
2019年に金額でインターネットがテレビを抜いてからの2年間、「テレビとネット」は「ネットとテレビ」に徐々にシフトしていった。2021年のマスメディアの敗北は、つまり広告メディアの王様がインターネットになり、「主役はネットでテレビはその補完」になったと言える。インターネット広告費が約2兆7000億円に達したのに対し、テレビ広告費(地上波テレビのみ)は約1兆7000億円。ネットとテレビは1兆円差の新しいコンビになったのだ。