齋藤:世の中のニーズを捉え、作家やアーティストに伴走しながら世の中に作品を出す。そういう意味では、広告クリエイティブと佐渡島さんがやっている編集は共通点がありそうですが、どうでしょう?
佐渡島:僕は似ていないところが多いように思います。というのも、僕は作品作りの段階でヒットさせようと考えることはほぼないんですよ。「表現せざるを得ない何か」を抱えている作家と、創作を通じてその正体を一緒に突き詰めることをしているイメージで、最後のマーケティングの段階になるまで売ることは考えない。
齋藤:作家さんの「デトックス」を手伝う感じなんですね。
佐渡島:そうやって作家が自身の生きづらさを解消し、それを作品を通じて共有すると、結果的に世の中の多くの人たちの生きづらさの解消にもつながります。主人公が居場所を見つけ、回復していく様子に、読者は自分を重ねていく。漫画『ドラゴン桜』であれば、東大を目指す学生の姿を見て、「自分も夢を持っていいんだ」「諦めずに挑戦していいんだ」と同じ学生は思えるわけです。
齋藤:作品を作る時に「こういう学生に向けて作品を作ろう」とは考えてないの?
佐渡島:あまり考えてないです。読者を想定するのは宣伝の時ですね。『ドラゴン桜』の三田(紀房)さんは比較的マーケティングから作るタイプですけど、例えば『宇宙兄弟』の小山(宙哉)さんは違う。
齋藤:小山さんに「子どもたちがワクワクするから大分県の宇宙港の話を描こう」と言っても響かないわけですね。
佐渡島:それだと小山さんは全然ワクワクしないですね。僕が重視しているのは「小山宙哉がどうやったら飽きずに書き続けられるテーマになるか?」です。初めから誰かに向けたものを作ろうとすると、その人の反応が気になるじゃないですか。褒められてもけなされても、評価を受け取るのは疲れる。だから僕は、世間から隔絶されたところで創作できるテーマを作家と一緒に見つけようとしています。読者の感動は、作家本人が作品を生み出すことで救われたことによる副産物ですから。
齋藤:その割に佐渡島さんの作品はヒットしていますよね。
佐渡島:結局、人は平凡なんですよ。人の悩みは特別なものではなく、深く掘り下げていけばみんなの悩みと通じるんです。ただ、作家が持つ人間的な悩みは平凡であっても、それを表現する力は卓越している必要がある。だから人に伝えるための表現技術は世間を見て磨いたほうがいいけれど、テーマや書くものについて時流を読む必要はない。そこを分けて考えることが超重要です。
佐渡島:一方でCMをはじめ広告クリエイティブは世の中に合わせることが重要ですよね。