「相手に動いてもらう」ために必要な7つのスキル

すると、最初は「納期を守るかどうか」という問題だったのが、「上司と部下の間にある感覚の違い」について踏み込んだ対話をする機会につながります。そこで、「納期」以外にも日頃から感じていた「ずれ」について認識を合わせることができれば、部下のパフォーマンスだけでなく、2人の関係にもよい影響がもたらされるはずです。疑問や反論を歓迎すれば、結論を「よりよいもの」へと進化させられるわけです。

相手が抱く反論「4つの壁」の具体例

こちらからの提案に対して相手が抱く疑問や反論は、主に4種類あります。ここでは「4つの壁」と表現します。4つの壁とは「関係性の壁」「情報整理の壁」「思い込みの壁」「損得勘定の壁」です。具体例で説明します。

こんな例を挙げてみましょう。総務部が業務のペーパーレス化を検討するにあたり、現場の人たちに意見を聞きたいと考えていて、「1時間のヒアリングを受けてもらえる人を、各部署から2人ずつ出してもらいたい」と現場の管理職に依頼したとします。このとき、業務のペーパーレス化によるメリットは現場にもあるはずですが、現場の管理職からすると「急に時間を取られることへの抵抗」や「ヒアリング対象者へ説明する面倒くささ」があります。そこで次のような疑問や反論が起こると推察されます。

まず、「こちらも忙しいので、現場の事情も考えてほしい。これは役員の了承事項ですか?」といった反論です。この発言の背景には「総務部は現場をわかっていない」という気持ちがあります。言い換えれば、相手に気を許していないので動きたくないのです。これが「関係性の壁」です。

「本当に全部署へのヒアリングが必要ですか? 一部の部署でもよいのでは?」といった反論もあるかもしれません。これは言い換えれば、状況がクリアになっていないので動きたくないということです。これが「情報整理の壁」です。

「以前もこの類のヒアリングに協力したが、現場には結果が共有されず、意味があるのか疑問に感じた。今回も同様では?」という類の反応があれば、それは「思い込みの壁」があるといえます。過去に嫌な思いをして、今回も同様のできごとが起こるに違いないので、動きたくないと思っているのです。

最後に、「ペーパー業務が非効率なことはもう明らかなので、忙しい現場の時間を使ってわざわざヒアリングする意味はないでしょう」といった反応も考えられるでしょう。割に合わないので動きたくないということです。これが「損得勘定の壁」です。

これら4つの壁を乗り越えて、相手と共に結論を進化させられれば、相手との関係は一段深まります。また、共に導き出した結論なので、二人三脚で物事を進められるようにもなるでしょう。つまり、相手が前のめりになって気持ちよく動いてくれる状態です。そのような状態に持っていけるようになるには、次に挙げる7つのスキルを鍛えることが近道です。

4つの壁を乗り越える準備として必要なのが、「想定する力」と「段取りする力」です。

「想定する力」とは、その場のゴール設定をしたうえで、発生しうる壁(疑問や反論)をできる限り洗い出し、どう対応していくかのシミュレーションをするスキルです。「段取りする力」とは、相手の発言を引き出してディスカッションを双方向に進めながら、場の目的を達成するために、相手の発言を資料や議題に落とし込むスキルです。

次に、4つの壁を乗り越えるためのスキルも必要です。

4つの壁を乗り越えるためのスキルとは

まだ気を許していないので動きたくないという「関係性の壁」があるときは、まず相手を十分に理解することです。「理解を深める力」で相手との関係を築く必要があります。状況がクリアになっていないので動きたくないという「情報整理の壁」を乗り越えるには、その場に出ている情報をビジュアルで整理して、相手と確認することで場を前進させる「見える化する力」を使います。