こうした「よく見かける」効果を検討した研究(Moreland & Beach, 1992)を紹介しよう。
研究は、大学の授業を舞台として実施された。授業の受講者は学期末に4名の人物(ターゲットたち)の写真を見て、熟知度、魅力、そしてその人と自分の類似度などについて回答を求められた。
じつは学期中に実施された40回の授業に、3名のターゲットは受講生のふりをして何回か参加していた。その回数はターゲットによって違っており、5回、10回、15回であった。1名は一度も参加していなかった。
ターゲットに対する受講生の評価を分析したところ、ターゲットを見た回数が多いほど、相手に対して魅力を感じて、その人をよく知っていると思ったり(熟知感)、自分と似ていると思ったりしていることがわかった。
わたしたちは、実際に話したり一緒にすごしたりすることがなくても、その人を何回か見るだけで、相手のことを知っていて、好ましいと思うのである。
こうした研究の知見を知ると、営業担当者が取引先を何度も訪問することや、ときにはオフィスを離れて会食の機会を設けることも理解できそうだ。接触の機会を増やすことで、担当者は取引先にとって「顔なじみ」の存在になることを狙っているのである。
わたしたちは誰かを好きになるとき、その人の魅力が大きいから相手を好きになるのだと思う。たしかにその通りではあるが、なぜ、その人の魅力を大きく感じるのか考えてほしい。
好意を持つのは、あなたの信念に合うから(美は徳)、あなたと相手が似ているから、そしてあなたが相手になじんでいるから、といった理由によるのかもしれない。すなわち、誰かを好きになることは、あなた自身が関わっているのだ。
このように、他者に対する好意にも「自分」が影響を与えている。他者に関するコミュニケーションにも、「自分」の影響は見られるはずである。