「怒りが収まらない人」が気づいてない"裏の感情"

感情の1つひとつを認知し、解像度を高めることで、自分の感情を整理する方法をご紹介します ©羽賀翔一/コルク
自分にとって怒りとは、悲しみとは何か――。感情の1つひとつを認知し、解像度をどれだけ高められるかによって、あらゆるインプットやアウトプットが変わってくる。
佐渡島庸平氏、石川善樹氏の共著『感情は、すぐに脳をジャックする』から一部抜粋して紹介する。

「ひとつの感情に長くとらわれない」

僕にとって感情への理解を深めることはライフワークでもあり、その根底には「観察力を磨き、インプットの質を高め、さらに質の高いアウトプットへとつなげる」という意識が働いています。とはいえ誇れるほどの域に達しているとはとても言えず、探究と考察を続けているわけですが、そんな中でも特に意識しているのが、「ひとつの感情に長くとらわれない」という点です。これはネガティブ感情にかぎらず、ポジティブ感情においても同様に考えています。

僕たちは日々、感情というフィルターをとおして世界とつながっていて、まったく同じ事象でもフィルターとなる感情の種類が異なるだけで見え方が変わってきます。「悲しみ」に長くとらわれていると思考そのものが悲観的になるように、特定の感情に固執するということは、世界の見え方や情報の受け止め方といったインプットに偏りが起こる可能性があるということ。結果としてアウトプットにもゆがみが生じます。

ではどうすれば、僕たちはひとつの感情にとらわれずに生きていけるのでしょうか。僕が実践しているのは、3つの思考ステップを踏みながら回していく、感情の理解を深めるサイクルです。

ステップ1【認知】……自分がどのような感情を抱いているのかを、分解・認識する
ステップ2【受容】……認知の過程で見えてきた感情を受け入れる
ステップ3【選択】……そのうえで、どのような選択肢があるかを考え、採用する

中でも僕は【認知】がとても重要だと感じていて、感情を理解するには「認知」がすべてと言っても過言ではありません。本書でこれまで述べてきたことは、ほとんどがこの部分に該当します。日常の中で見過ごしがちな無自覚の感情やバイアス、クセを理解し、いかにして自分をメタ認知できるかに尽きると思います。

「自分は今、何を感じているのか? それはどんな感情か?」

すべてはこの問いからはじまりますが、認知とは表層的感情の自覚はもちろん、それを掘り下げて分解していくことで、奥に隠れている別の感情や自分の価値観を認知するという意味も含まれています。「感情の解像度を上げる」作業なので、簡単なようで実はかなり難しく、僕もいまだ試行錯誤しながら糸口を探っています。

自覚している感情以外にも注目する

まず僕がプルチックの「感情の輪」を利用して認知を行うときは、自覚している感情だけでなく、その両側と対極にある感情にも注目します。基本感情の組み合わせから生まれる混合感情との関係性からもわかるように、ひとつの感情がそれだけでシンプルに成り立っているはずはない、と考えているからです。

たとえば職場の上司から「そんなやり方をしていると成功しないよ」と指摘されたことに「怒り」を感じたのであれば、「怒り」と両隣にある「期待」や「嫌悪」、対極の「恐れ」までも視野に入れて、次のような問いを立ててみます。

・自分は相手に何を「期待」していたのか
・自分は何に対して「嫌悪」しているのか
・自分は何を「恐れて」いるのか

こうした1つひとつの問いに思考を巡らせて仮説を立てていきます。その結果、自分の中に「成功できない人」と評価されることへの「不安」や「恐れ」があり、それが「怒り」へとつながっていたことに気づくかもしれません。