このナルシストの行動は、2つの「認識のゆがみ」から成り立っています。1つは、ナルシストがパートナーの小さな弱みをルーペで見るように拡大して認識していること。もう1つは、ナルシスト自身の弱みを大幅に縮小して認識していること、です。
こうした「認識のゆがみ」に陥ると、たとえばパートナーの少し長めの鼻ばかりが気になってしまい、魅力的なパーツがまったく見えなくなってしまうといったことが起こるのです。ナルシストは「パートナーは私の価値を引き上げるためにいる」と考えているため、パートナーの弱みに非常に腹が立ちます。ナルシストにとっては、パートナーも自分とまったく同じように完璧でなければならないのです。
このようにナルシストがパートナーの弱みを拡大して見てしまうことに対して、パートナー自身はどうすることもできません。にもかかわらず、依存的なパートナーは、自分がもっと優秀に、もっと美しくなりさえすれば、相手も自分に満足してくれるだろうと思ってしまうのです。
これは、自己肯定感が低い人が行う誤った推論の典型的な例ですが、こうした誤った推論は、ナルシシズムが強い人との関係だけに見られるものではありません。世の中には批判されると、どのような批判であっても(その批判が非常に不当で、本来は自分とは関係のないものであっても)すぐに落ち込んでしまう人がたくさんいます。それは、その人たちが過去の刷り込みから、心の底でいつも「私のせいだ」「私は十分ではない」と感じているからです。
ナルシストの期待に応えようとするパートナーも同じです。もしかしたら、その人の理性的な部分では、ずっと前からすでに「私の彼(彼女)はナルシストであり、彼(彼女)が批判していることは私のせいではない」とわかっているかもしれませんが、無意識ではそのことに気づかず、劣等感を抱いているままなのです。
そのうえ、彼らの劣等感は、ナルシストの批判を受けて強まっています。そこで、その劣等感を払拭するために、「なんとしても彼(彼女)に認められ、気に入られるようにしなければ」と思い、一層努力します。けれども、ナルシストの態度は変わりません。もともと依存性のあるそのパートナーは、自分が他者に影響を及ぼせない無力な存在であることを実感し、ナルシストにもっと依存するようになっていきます。悪循環です……。
ナルシシズムの強い人がものすごい野心を抱いて権力志向になると、嫌われる同僚や上司になります。それは、ナルシストが非常に傷つきやすいからでもあります。ナルシストの心は非常に不安定で傷ついているのです。
しかし、ナルシストは、外見上はつねに自信満々で、繊細な人には見えないため、ささいなことでも傷つくことを周りの人からわかってもらえません。しかも、ナルシストは傷つけられて屈辱感を覚えると、悲しくなって引き下がるのではなく、ものすごく腹が立ってくるのです。怒りとねたみは、ナルシストに強く表れる感情です。
また、ナルシストはひどいうつ状態になることもあります。とくに成功するための戦略が失敗し、自分の負けを認めざるをえない状況になると、必ず「うつ状態」になります。そのような状況下では、ナルシストは自分が理想とかけ離れていると感じるため、絶望に陥ります。そこで、絶望感をなくすために再び成功できるよう努力するのですが、負担が大きくなりすぎて、精神的に行き詰まることがあるのです。
ところで、実はナルシシズムは誰もが使う防衛戦略です。その人を「ナルシスト」と呼ぶかどうかは、ナルシシズムの程度によるだけで、誰でもこの戦略を少しは使っているのです。