部下「そうですね、そうなればいいんですけど」
プライベートについても掘り下げてみる
上司「差し支えなければ。プライベートでやりたいことってどんなことですか?」
部下「絵画です」
上司「おーっ。素敵な趣味ですね。じゃあ、コンクールに出品したり」
部下「ハイ、今もそれ用の絵を描いていて。子供の頃からずっと絵を描いているんです」
上司 「そうかあ。それだと確かに、絵を描く時間が必要になるね。じゃあ、絵画でスキルを高めていくのがライフワークになっている感じ」
部下「そうですね。ゆくゆくは教える立場になりたいと思っています⑥」
上司 「ああ、いいじゃないですか。いずれ自分が身につけた技術を教えるステージがくるということですよね。人に教えるのって結構大変じゃないですか」
部下「たしかに自分で描くのと教えるのとでは全然違うでしょうし」
上司 「自分が感覚でわかっていることもあるし。理論としてわかっていることもあるし。それを相手に伝えるってことですよね」
部下「そうですね」
上司 「ちょっと聞いてて思ったんですけど。うちの会社って営業が強い会社じゃないですか。山下さんはうちでは上位に入ってるけど、山下さんが普段やっている営業トークとか、事前準備とか、周りで知りたい人はいっぱいいると思うんだよね。そのノウハウを周りに教えて周りが成果を出すことで、山下さんの評価が上がるという道筋があったとしたら、それってどう思う?⑦」
部下「うーん、人に教えるのって難しいですよね」
上司「そうですね。でも、それを絵画の世界でやりたいわけですよね」
部下 「ただ、それは趣味の世界だったらいいと思うんですけれど、仕事だとこっちの責任感が重くなるし、やっぱりプレッシャーだと思うんですよね」
上司「プレッシャーのない環境でやりたいんですね」
部下「ハイ、自由に伸び伸びとやりたいんです。人の成長をゆるく見守りたいって言うか」
上司 「それは素晴らしい。そのうえで、もし『人を教えるスキル』が身についたら、もっと楽になるということは、ありえませんか⑧」
部下「そうですね。できたほうがいいとは思うんですけど。部長にサポートしていただけるんだったらできそうな気がします」
上司「それじゃあ、一緒にその作戦を今度練りましょうよ」
部下「はい、お願いします」
前ページまでの上司と部下の会話例は、次の図のように、4つのステップで相手の話を引き出して整理しています。この4ステップによって、相手が自動的に解決にたどり着くことができるのです。
対話例、番号部分の解説
対話例の中で①から⑧まで番号を振った部分について、その意図や背景を説明しておきましょう。
①ここから現状を把握するためのやりとりに入っていきます。今の部下はどれぐらいの割合のやる気があるのかを確認するため、数字で聞き出します。
②上司としては「いやいや、100%もいってないでしょう!」とツッコミを入れたくなる場面かもしれませんが、そこはグッとこらえて肯定的に受け取りましょう。言っても何の効果もありません。どんな答えであっても、肯定的に受け止めるのが思考整理の基本です。ここから、「それなら、なぜやる気MAXであるように見えないのか?」を知るための質問に切り替えます。
③部下の言い分について深掘りしていきます。たとえ「ノルマを達成できていればそれでいい」という部下の考え方を肯定できなくても、人によってとらえ方は違うのだと思うようにしましょう。
④こういう場面で数値化してもらうと、相手が何を望んでいるのかが見えてきます。
⑤内心、「プライベートと仕事で5対5かぁ……」と動揺しても、それを表面には出さずに、ここはいったん、否定も肯定もせずに、ニュートラルに受け止めましょう。