なぜNo.1ビジネス書書店が絵本グッズを売るのか

長年愛されている絵本からSNSを通して一気に売れた絵本まで、幅広い本の中から、絵本のキャラクターやストーリーに関連したグッズをつくり、絵本とともに並べて販売すればファンづくりにもつながると思ったのです。

メインターゲットは、子どもではなく絵本に慣れ親しんでグッズに興味のある大人に設定したため、書店で最も売れているビジネス書市場の「ついで買い」なども期待できました。構想は数年前からあり、コロナ禍が実現を後押ししました。

絵本をモチーフにしたキャラクタービジネスを展開する場合、版権を所有する出版社に許諾を取り、場合によっては著者の絵本作家と交渉してデザイン画を描いてもらうなどして製品開発を行います。

まず出版社に向けて内覧会を行ったところ、70社のうちで契約したのは数社でしたが、興味を持ったのは40社にものぼりました。

「動き始めて改めてわかったのですが、出版社はコンテンツはあるけれどモノがつくれない。メーカーはモノづくりはできるけれど売る場所がない。書店は、コンテンツもないしグッズもつくれない。

けれど、最後の出口となる『売る場所』がある。場所があるというのはとてつもない強みになる。やはり、私たちがグッズの企画販売から行い、発信基地のような形で書店を活用したら面白いのではないかと思いました」

明治時代から原稿用紙や万年筆、洋服など、オリジナルで製造した経験のある丸善には、ものづくりのノウハウそのものはありました。

プロダクト販売とは異なるビジネスモデル

しかし、これは、言うは易しです。

同社は、本という商品を仕入れて売り切るプロダクト販売(つまり、もの売り)を行っており、そのビジネスは、売れなかったとしても出版社に返品できるシステムです。

しかし、キャラクタービジネスは、キャラクター商品の企画開発から製造販売に至るまで、マーチャンダイジングを行うことを意味しています。ゼロからつくるため、「丸善に行かなければ手に入らない」という希少性を高めてファンをつくる可能性が高まる反面、売れなければ余剰在庫は自分たちが抱えることになります。

プロダクト販売とはマネタイズのあり方が異なり、まったく新しい収益源に着手するようなものです。当然、これまでのプロダクト販売の事業活動の範疇を超えるため、社内ベンチャー的な位置づけで新規事業部を立ち上げなければなりません。

実際、篠田氏も自らが先頭に立ち、EHONS事業推進チームを立ち上げ、絵本販売に携わってきた人、商品企画を行う人など、キャラクターグッズ販売を行うために、社内から7人を集めてチームを編成します。

成功体験からの学び

実は、そこまでしてでもやる価値を篠田さんは見出していました。もともと同社は、東京オリンピックのオフィシャルグッズの販売代理店になっていました。開催が1年延期になった後、7月から8月にかけてグッズ販売の機会を得たのです。

「販売価格が1点1500円の商品なのに、1日に1000万円以上売れるなど、こちらの予想をはるかに超える売り上げになりました。1日に1200種類ある商品のうち1100種類が動いたこともありました。一番販売した月は、日坪25万を記録し、通常の運営ではありえない数字が出ました。桁が違うのです」

宣伝は十分とは言えませんでしたが、それでもSNSを見たのか、無観客開催のために、グッズ販売店が限られており、どこからともなく聞きつけて、たくさんのお客様が来店してくれました。

その後、Mリーグ(マージャンプロリーグ戦)の開幕フェアでもオリジナルグッズを販売する機会がありましたが、こちらも著者イベントを行ったところ、その日だけで200万円を叩き出すなど、麻雀関連の書籍販売だけではありえない売り上げになりました」