「ターゲットはシニアではなくママ」で大ヒット

今から考えると画期的な製品だったのですが、思惑に反してさっぱり売れない。ただ、不人気だった理由ははっきりしています。高齢者は「シニア向け」とカテゴライズされた商品を買いたくないからです。

とはいえ、少ないながらも売れているので、状況を聞こうと営業部員が販売店にヒアリングに行く。すると、シニア向け製品のはずなのに、「もっとパワーのある製品がほしい」と言われることが多かったといいます。よくよく聞いていくと、そうした要望を口にしているのは、実は高齢者ではなく、後ろに子ども用のシートを取り付けて保育園の送迎に使っているママさんたちだとのこと。

そうした状況を理解して、ママさん向けに「子ども乗せ」の方向に大きく路線変更したのは、発売からある程度、時間が経ってからだそうです。法改正により、2009年に前と後ろに幼児を乗せる「3人乗り自転車」の利用が解禁されてからは、さらに普及が加速しました。

ママ向けの保育園の送迎用ですから、タイヤを小さめにして、最初からチャイルドシートをつけて売ることにすると、どんどん売れるようになった。そうすると、パナソニックの自転車部門(当時は「ナショナル」ブランド)が参入してきます。

もともと松下幸之助さんが自転車店で丁稚として働いていたこともあって、自転車のメーカーとしても歴史があり、しかも電動アシスト自転車は電器メーカーである本体ともシナジーのある分野。販売力があり、家電などのプロモーションで女性へのアプローチの蓄積もあってか、パナソニックはあっという間にシェア1位になったのです。

ヤマハはブリヂストンに電動アシスト自転車のフレームをつくってもらっていて、ブリヂストンが参入してきてからは電動駆動ユニットを供与するという相互OEM供給の関係になっていますが、国内シェアではパナソニックがダントツの1位。2位にヤマハ、3位にブリヂストンという順位が続いていました。

ブリヂストンは3番手として、どう差別化を図れば、シェアを広げることができるのかを考えます。

先ほどお話ししたように、電動アシスト自転車のメインの使用シーンは保育園の送迎です。「どうすればもっと楽に送迎できるか」を考えて、女性でもまたぎやすいように、ペダル部分と前輪をつなぐフレームを低くしたり、買い物袋をつけられるようにしたりと、いろんなことを試みるものの、パナソニックとヤマハには勝てない。

そこで、女性誌とのコラボレーションで、ママさんたちに向けて、ある意味で「究極の電動アシスト自転車」をつくることになります。その答えは「運転手つき」。つまり、「パパが乗る」ための電動アシスト自転車です。今でこそ、若い男性も数多く乗っていますが、以前は「女性や高齢者向けの商品」という印象の強かった電動アシスト自転車を、男性ユーザーを大いに意識してつくったのです。

HYDEE.B(ハイディビー)という商品ですが、「ハンサムバイク」というキャッチフレーズで、つや消しブラックなどのカラーを用意し、タイヤも大きめ。ハンドルについた計器でスピードも表示できるし、多くの男性が好むような、スポーティでかっこいいデザインにしました。

女性にしてみると、「スピードが何キロ出ているかに興味はないし、とにかく何でもいいから、楽に早く送迎できればいい」という人も多いと思われますが……。

もちろん、マーケットとしては、まだ順位を一気に逆転できるほど大きくはありません。やはり仕事の関係もありますから、たとえば朝はパパが送っていても、迎えはママということも多い。そのため、結局はママも乗れるようにしています。

売れる商品をつくるために入手すべき情報とは