ビジネス利用においても、スマートフォンで見ることができるメタバースサービスに注目が集まっていた。日本では緊急事態宣言およびまん延防止等重点措置が終了したとはいえ、いまだ新型コロナの危機は残っている。移動を必要とせずに商談や会議をしたいという目の前の課題を解決するために、新たなデバイスを用意しなくてはならないというのはハードルが高い。
事実、VRヘッドセットは一般に普及しているデバイスとはいえない。数年前までは高価で扱いにくい存在だったQuest 2は税込み3万7180円とゲーム機として考えると魅力的な存在となったが、誰もが手に取るデバイスとなるにはまだ大きく、約500グラムと重く、バッテリーの持ちも悪い。
しかし、だ。そのことをメタが、ザッカーバーグ氏が意識していないなんてことがあるのだろうか。
フェイスブックは2004年に、学生向けのコミュニケーションサービスとして生まれた。2006年に一般公開され大きなユーザーが集まるSNSへと成長したが、iPhoneをはじめとしたスマートフォンの存在が成長を助けたことに異論を差し挟む人はいないだろう。誰もがコンピューターをポケットに入れて持ち運べる時代が、場所を問わずにコミュニケーションできるSNSを支えてきた。
メタはほかにもワッツアップ(音声、動画メッセージが送れるサービスで4G回線とともに普及)、インスタグラム(スマホカメラの性能向上とともに普及)といったサービスを持っている。フェイスブックを含めてハードウェアの進化やインフラの普及が、インターネットを活用するユーザーの行動形態を変えていくことを知り尽くしている企業体だと言っていい。
ザッカーバーグ氏は、インターネット上のプラットフォームの主軸が文字から画像、動画へと移り変わり、今後はVRとARが後を引き継ぐものになると信じていると話す。
メタが目指すメタバースが、スマートフォンを手に持たずとも多くの情報を摂取できるハンズフリーなデジタル情報社会を作り上げようとする意思であり、宣言だとするならば、VRヘッドセットのメーカーでもある彼らは、より扱いやすいスマートグラスを開発し、誰もが手軽に携帯できる未来を作ろうとしていると考えられる。そう、スマートフォンを置き換えるデバイスの創造だ。2007年にiPhoneが発売されたことで、世界中の情報流通の形も消費の形も変貌したあの衝撃をメガネ型デバイスで起こそうとしているのではないか。
10月28日の発表では、来年に発売されると噂されている新型VRヘッドセットの情報も少しだけ明らかになった。
従来機は主に上半身の動きを検知することができたが、新型機はよりリッチな体験ができるハイエンドモデルとして、足などの下半身、指先や、眼球、表情の動きまでも捉えることが可能になるようだ。VRヘッドセットに表示されたキーボードを叩けば文字が入力できるし、エアギターで本当に音を奏でられるようにもなる。
言葉では伝えきれない喜怒哀楽の感情をアバターに反映させ、現実世界で会って話しているときと同じ感覚でのコミュニケーションができることを予告していた。また周囲の現実を、カラー表示で透かして見ることができる機能も搭載されるようだ。
この段階では、まだメタの理想とする世界にはたどり着けないだろう。しかしコミュニケーション用途において十分な機能を持ったモデルになると想像できる。あとは軽量化や小型化といった課題をどうクリアするか。素材技術や製造技術の進化スピードにもよるが、筆者は、彼らが5カ年計画でデバイスを進化させて、ポストスマートフォンになりえるデバイスが生まれるのではと予想している。