イェール大学の心理学教授リチャード・ニスベットは、親の階級と子どもの学力の関係性について研究しました。注目したのは、「語彙」の量です。言葉は思考力を育む重要な要素として知られており、語彙力はその重要な要素になっています。
専門職の親は子どもに対して1時間当たり2000語を使うのに対し、労働者階級の親が使うのは1300語。子どもが3歳になる頃には、専門職の親を持つ子は3000万語に触れるのに対し、労働者階級出身の子が接する語は2000万語にも満たないのです。このことから、3歳の時点で子どもたちには大きな学習量の差が生まれることがわかります。
ここまで読むと、学力の優劣とは生まれ育った環境である程度決まり、一度決まった「序列」を覆すのは難しいのでは、という気分になってくるかもしれません。社会は成績上位の者を優遇し、成績上位の者は優越感によって実力をさらに伸ばしていく。一方、それ以外の子どもは「自分はできない」「平凡である」という否定的なシグナルを受け取り続け、そのとおりの人生を歩んでしまう。
もはやそれは、逃れられない運命なのではないかと絶望的な気持ちになることもあるでしょう。しかし、安心していただきたいのは、そのような悪いシグナルは、必ず断ち切ることができるということです。
スタンフォード大学の心理学者クロード・スティールは、「環境のシグナル」に関してこんな研究をしています。スティールの研究チームは、成績が中位程度の学生を3つのグループに分けました。
はたして、この3グループの成績にはどのような違いが生まれたかのでしょうか?
結果として、2と3のグループは以前に比べ成績が2倍に伸びたのです。中でも、3のグループの学生たちの成績は時間が経つほどに伸びていきました。この3グループは、言い換えると、以下に分けられます。
そして、肯定的なシグナルを受け取るグループほど、どんどん成績がよくなる好循環に入ることができた、というわけです。スティールは、「環境のシグナルを断ち切るのは、貧困や遺伝子を変えるよりも現実的だ。その点で明らかな利点がある」と述べています。